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【SIDE:M】

 11月下旬――俺は、困惑していた。 「理人?」 「……」 「どうかしたか?」  丸いテーブルの向かい側から、俺を覗き込む壮年の男――の前にそびえ立つのは、世界中から集めたんじゃないかっていうくらい、たくさんのいちごが乗った巨大なパフェ。 「まずい?」  男は、パフェスプーンに生クリームを大盛りにし、ひと口で頬張った。  ペロリと唇を舐めてから、俺にも「手を休めるな」と視線で促してくる。  見下ろした俺の視界の中心には、できたてのクリームソーダ。  でっぷりと丸いガラスの中に作られた、夢の世界。  大きすぎるバニラアイスは、新緑色のメロンソーダの海に沈没寸前。  小さな三角コーナーの形に絞り出された生クリームの上に佇むのは、双子のさくらんぼ。  そこにあるのは、俺の理想通りのクリームソーダだ。  まずいわけがない。 「すごく美味しいです、けど……」  ちらりと様子を窺うと、目の前の男は、器用に片眉をひょいっと持ち上げた。 「けど?」 「本当に、こんなことでいいんですか? レッスン料、ちゃんと払いたいんですけど……」  男の名前は、赤羽(あかばね)光之介(こうのすけ)。  赤羽楽器店のオーナー兼店長兼講師で、佐藤くんの上司だ。  そして今は、俺の〝先生〟でもある。  期間限定だけど。 「言っただろ。彼氏の誕生日のために頑張るお前の熱意に絆されたんだって」 「でも……」 「いいだろ? 理人はこうして大好物のクリームソーダが食べられる。俺は、ずっと気になってたジャンボパフェが食べられる。一石二鳥じゃないか」 「そんなこと言って、結局いつも赤羽さんがお金払っちゃうじゃないですか」 「そうだっけ?」  赤羽さんは、白々しい態度で堂々としらばっくれてみせた。  仕草はすごく子どもっぽいのに、洗練された空気感は全然薄れない。  40代だと言われても、50代だと言われても、60代だと言われても納得してしまいそうな大人の男の余裕が、彼にはあった。  講師と生徒として出会っていなければ、の人だと勘違いしていたかもしれない。  赤羽さんのことを佐藤くんにいろいろと聞いてみたいけど、バレたらサプライズ計画がおじゃんになってしまうし……。 「赤羽さん……?」  そんなことをぐるぐる考えていたら、いつの間にか赤羽さんに頭を撫でられていた。 「そんなかわいい顔してると、食っちまうぞ」  くしゃくしゃと髪を乱され、ついでに脈拍まで乱される。  俺が慌ててバニラアイスをスプーンですくうと、赤羽さんは声を上げて笑った。

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