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【SIDE:L】
息が、できなかった。
ヘッドホンに閉ざされた無音の世界が、あっという間にピアノの音でいっぱいになる。
小さい頃、家族や友達から何度も贈られた歌。
それを今、愛する人が、一生懸命に奏でてくれている。
俺の為に。
鍵盤に叩きつけるように動く指は乱暴で、旋律はたどたどしくて、時々止まりそうになるリズムは危なっかしくて、ピアノの先生としては、とても及第点をあげられる演奏じゃない。
それなのに、どうしてだろう。
♪ハッピーバースデー・トゥー・ユー♪
♪ハッピーバースデー・トゥー・ユー♪
優しくて、
あったかくて、
涙が、出そうだ。
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