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【SIDE:M】
12月9日――俺は、放心状態だった。
って、あれ?
いつの間にか、日付が変わってる……!
「あ、料理出しっぱな……ッ」
「理人さん!」
「うっ……」
「大丈夫ですか……?」
「だ、大丈夫……」
なワケあるかよ!
おしり……じゃなくて、腰は痛いし、喉はカラッカラだし、胃は空っぽだし、料理は冷めてるし、シャンパンは未開封だし、腕時計は渡せずじまいだし、日付は変わってるし!
俺は、いったい何回イかされたんだ……?
佐藤くんのスイッチを押した自覚はあったし、なんなら今夜に限っては自分から喜んでスイッチをぽちっとしに行ったわけで、ONモードになった佐藤くんは、最初は本能のままって感じで俺を求めてくれた。
でも、一度果ててからは、なんだかものすごく、ゆっくり、じっとり、ねっとり……と、俺の身体を隅々まで舐めつくすみたいに、大事にしすぎだろってツッコミたくなるくらい、優しく抱かれてしまった。
ああ、愛されてるんだな……って心が満たされて、愛してるって言葉もいっぱい囁かれて、嬉しくないはずがないない。
でも、今日は……いや、もう昨日だけど、今日は、佐藤くんの誕生日なのに!
これじゃ、いつもと変わらないどころか、いつも以上に俺がギブされて、テイクしまくってるじゃないか!
んぎぎぎぎ……とシーツを噛みしめてる俺の頭を撫でながら、佐藤くんが、幸せそうに微笑む。
俺がこの顔に弱いって知っててわざとやってるなら、ぶん殴ってやるからな、このやろう……!
「理人さん」
「……なに」
「素敵なプレゼント、ありがとうございました。うっかり感動しちゃいました」
「……ふぅん」
よかった……喜んでくれて。
先週様子がおかしかったから、バレてないかハラハラしたけど、一ヶ月頑張った甲斐があった。
赤羽さんにも良い報告ができそうだ。
結局、レッスン代は受け取ってもらえないままだったし、パフェを驕らせてくれたのもたった一度で、ほとんど俺がご馳走になってたし、今度、お礼を持って『赤羽楽器店』に行こう。
先生のおかげで上手くいきました、って報告がてら――
「それで、理人さん」
「ん?」
「『愛しい君に捧げる俺のLOVE♡SONG』は、いつ聞かせてくれるんですか?」
「は……?」
佐藤くんが手に持ってひらひらさせていたのは、白い紙切れ。
見覚えのあるそれは……確か……おっひょう!?
「………う」
「う?」
「うわあああぁぁあッ!」
俺は勢いよく身体を起こし、壁際まで一気に尻ずさった。
もちろん、大事なところをおっぴろげてしまわないように、シーツを無理やり巻き込みながら。
「なっ、なんでそれっ、それを、佐藤くんが持って……!」
「うっかり拾ったんです」
「うっかり!? 嘘だろ! お、俺の鞄、漁っただろ!」
やっぱりかよ!
先週、様子がおかしかったのには理由があったんだ……!
「ひどいなあ、嘘じゃないのに。これをうっかり拾ってからずっと、今年の誕生日プレゼントは、理人さんの生歌か~って楽しみにしてたんですよ?」
「ふ、ふざけんな! 返せ!」
「うわ、ちょっ、あ……っぶないじゃないですか」
なんで避けんだ、このやろう!
「これも、〝秘密のミッション〟の一部じゃなかったんですか?」
「……やめたんだよ。作詞の才能ないって分かったから」
「そうですか? 俺は、けっこう好きですよ。ほら、こことか」
「は……?」
「『君と出会ったあの日 特別になったあの日 WOW WOW……』」
ちょっ……!
「『クリームソーダの向こうから僕を見つめる君の視線 弾けるエメラルドグリーンより激しい僕の鼓動 Yeah』」
おいっ……!
「『名前も知らなかった君なのに 何故だか目を離せなかった LaLaLa……』へえ。理人さん、あの日あのときあの場所で、こんな風に思ってたんですか」
「やめろ! ニヤニヤするな! 朗読もするなッ!」
むしろ早く紙を返せ!
「『あの日、君に出会えて良かった』」
「だ、だからやめろって……!」
「『君と出会う前、僕はいったいどうやって生きていたんだろう?』」
「このっ……」
「『僕はもう君なしでは生きられない。君と出会えたことが、僕にとって最高の奇跡』」
「……」
「『生まれてきてくれてありがとう』」
「っ」
「……理人さんの泣き虫」
だって、
「そんな優しい声で読むからだろ……っ」
俺が佐藤くんに伝えたくて綴った言葉なのに、まるで佐藤くんも「同じ気持ちだ」って言ってくれてるようで、
優しくて、あったかくて、
涙が、止まらない。
小さく苦笑してから、佐藤くんは俺の頭をヨシヨシした。
ああ、くそ。
本当に、どこまでも情けない。
今日は、俺が佐藤くんをヨシヨシしようと思ってたのに。
「もしかしてこれ、赤羽さんにも見せたんですか?」
「え……うん、レッスン初日に。でも、目に涙溜めながら爆笑されたから、即ボツにした」
初対面の先生に、腹抱えて「ヒーヒー」言いながら笑われた上に、「正気?」って言われたら、「やだなあ、冗談に決まってるじゃないですかぁ」ってごまかすしかないだろ!
「理人さん、赤羽さんにはもう会わないでください」
「へ、なんで?」
というか、なんで俺の『先生』が赤羽さんだって知ってるんだ?
「理人さんを見る目がいやらしかった。狙われてましたよ、絶対」
「はあ? なに言ってんだよ。あの人結婚してるし、愛妻家だし、高校生の娘さんもいるんだぞ」
「それでもダメです。相手が理人さんなら、余裕で別腹に入っちゃうでしょ」
「なんだそれ?」
俺は食後のデザートかよ。
でもまあ、プレゼントは喜んではくれたみたいだし、ミッションとしては「大成功♡」って胸を張っていいんだろうな……あ、いや、待て。
最後の仕上げを忘れてた。
「佐藤くん」
「はい?」
「誕生日おめでとう」
「……」
「今日からの一年間も、そのまま俺を好きでいてくれよ?」
佐藤くんは、もう一度掠めるように俺の唇を奪い、向日葵のように笑った。
fin ……と見せかけて、おまけに続く♡
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