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果報は寝て待て
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仁side
ぎゅっと抱き付いてくるケイ。
こんな風にまだ自分に懐いてくれるから少し安心。
顔も知らない友達とやらに取られちゃうんじゃないかって不安になってた。
「朝ご飯食べよう」
ケイの頭をポンポンと叩く。
「仁さん、朝ご飯なら僕食べちゃいましたよ」
ニコッと笑うケイ。
時計見ると10時過ぎてて、 えっ?10時ーっ!
慌ててベッドから降りる俺。
「どうしたの?」
「やばい、11時に依頼人と約束してたんだよ」
俺は猛スピードで着替える。
「出掛けちゃうの?」
「ケイはいつも通りに事務所の留守番頼む」
ああっ、俺ってば!バカバカ!
昨日、アラームかけないで寝ちゃってたもんなあ。
「じゃあ、ケイ、行ってきまーす」
俺は猛ダッシュで玄関へ向かう。
「行ってらっしゃーい」
ケイの言葉が聞こえ、手だけを振りかえす。
ぶっちゃけ間に合わない。
俺、車持ってないしなあ。
美沙はとっくに仕事出ちゃったから車ないし、
ハルさんに………、 ってあんま、迷惑かけれないなあ。
いっそタクシーか?
やっぱ車買おう!
探偵が車無いとはマジ有り得ないし。
「仁くん」
声をかけられて振り向く。
「お兄さん」
安っぽいアパートには似合わない高級車に乗ったお兄さん登場。
「おはよう。どうしたの?何か急いでない?」
ニコッと爽やかに微笑むお兄さん。
「おはようございます。あの、お兄さん駅までいきますか?」
「いくよ。乗っていく?」
ああっ、神様ありがとう!
藁をも掴む思いで俺は、 「ありがとうございます」と図々しくも助手席に乗り込んだ。
俺がシートベルトを装着するのを確認するとお兄さんは車を発進させた。
良かったーっ!
ギリ間に合いそう。
でも、またお兄さんに迷惑かけちゃったな。
「お兄さん、今から会社ですか?」
「いや、今日は休み」
「えっ?」
お兄さんは高そうなスーツを着ていかにも仕事っぽいのに。
「休みなのにスーツですか?」
「まあーね。だから仁くんが行きたい場所まで送ってあげるよ」
お兄さんは優しく微笑んでくれる。
でも、休みなのにそこまで迷惑掛けれない。
「いえ、大丈夫です。お休みなんですよ、あっ、休みなのにすみません」
俺はひたすら謝る。もう、本当に俺どんだけお兄さんに迷惑かけてんだよ。
「ううん、嬉しいんだよ。休みはいつも引きこもるし、それに仁くんと居たら楽しいからさ」
お兄さんは優しい。
嫌な顔もしないし、優しい言葉で俺を嫌な気持ちにさせない。
「仁くん何しに行くの?」
「依頼人に会いに」
「探偵だったね」
「はい」
「あ、じゃあ俺も依頼して良い?」
「えっ?お兄さんが?」
「うん。ダメかな?」
「ダメじゃないですけど、ハルさんに依頼とかしないんですか?」
「俺は仁くんに頼みたいんだ」
お兄さんは凄く真面目な顔で俺を見つめてきて、何だか照れてしまった。
直ぐに目をそらしちゃったけど。
「だ、ダメじゃないです」
「受けてくれるって事?」
「はい」
「本当?嬉しい」
お兄さんは凄く嬉しそうに笑う。
すんげえ無邪気に。
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妄想お兄さんside
仁くんが横に居る。
もう運命だよね。
寝坊して良かった!
それに、良い事も思いついたし。
仕事を依頼する。
これで何かにつけて仁くんと一緒に居れるよ。
「お兄さん、何の依頼ですか?」
「うん?あのね……人を捜して欲しいんだ」
「人捜しですか?」
「ちょっと恥ずかしい話だからハルにも言わないで欲しいんだけどいい?」
「ハルさんにも?……………分かりました。依頼人の秘密を守るのは当然ですから」
ニコッと笑う仁くんが可愛い。
「依頼はね、」
言いかけた時に胸ポケットの携帯が鳴る。
表示を確認すると、楠木と名前が。
あー、もう良い所なのに!
俺は着信拒否を選択して携帯を胸ポケットにしまう。
「出ないんですか?」
「大丈夫。知らない番号だから」
笑って誤魔化す。
「依頼はね、……恥ずかしいんだけど、一目惚れした相手を捜して欲しいんだ」
俺は仁くんを見つめた。
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