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果報は寝て待て 10話
「…同性愛者なんです」
佐々木さんはそう言って目を伏せる。
「そうなんですね。その彼とは普通に会えないんですか?」
質問して、普通に会えるなら依頼しないよな?なんて後から思ったよ。
佐々木さんは首を振ると、
「俺、彼の側に行くと警察に捕まるんですよ」
そう言って寂しそうな表情を見せる。
「へ?何で?」
警察?ヤバい人なん?
驚いて、つい、タメ口。
「恥ずかしい話。…生徒に手を出してしまったんですよ。性的関係が学校にバレてしまって、相手も俺が本気になり過ぎて嫌になったみたいでストーカー被害届け出して、それで、彼には会えないんです」
佐々木さんは目に涙を沢山溜めて、…今にも零れそうだよ。
うわあ~生徒と……って事は先生なのか佐々木さん!
「佐々木さん、先生だったんですね。じゃあ、彼は高校生?」
「…………いえ、中学生です」
「はい?」
驚きのあまりに俺の聞き返す返事は裏声になってしまった。
中学生?
高校生でもヤバいのにさ!
中学生って13とか14とか15だよな?
ショタコンかよ!
「どん引きですよね?10以上、年下の男の子と淫らな行為とか」
一瞬、声に出してしまったのかと思うくらいに佐々木さんは暗い顔。
まあ、自分でもそう思ってるんだろうなあ。
はい。とも言えずに、
「いえ、まあ、好きになれば年齢は関係ないですし」
とフォロー。
すると佐々木さん、俺の手をいきなり握りしめて、
「ありがとうございます!初めてです。そんな風に言われたのは」
と泣かれた。
うーん、佐々木さんは泣き上戸だな。
「友人はもちろんですけど、職場の同僚や警察とかで……凄く冷たい目で見られましたから」
ポロポロと涙を流す佐々木さん。
本当に辛かったんだ。
「誰も話とか聞いてくれなかったんですか?」
「いえ、たった1人だけ居ました」
良かった。ちゃんと話聞いてくれる人は居たんだな。
…それよりも、
「あの、そろそろ手を…」
そう、佐々木さんは俺の手を握りしめたまま。
「ああっ、すみません」
佐々木さんは慌てて手を離した。
「あの、本題に入っても良ろしいですか?」
俺がそう言うと佐々木さんは頷く。
「では、佐々木さんはその彼に会ってどうしたいのですか?」
「…分かりません」
うなだれる佐々木さん。
いやいや、分からないじゃ俺が分からない!
「会って本気だったと伝えたいとか?」
俺から探らないと仕事にならないよな。
俺の質問に佐々木さんは顔を上げて、
「そうかも知れないです。初めはちょっと遊んでやろうかな、って軽い気持ちだったのに、気付いたら本気になってて……きっと真世は俺が本気だったって知らない」
そう、言葉にすると涙を零す。
本気に泣き虫だな。
……………ん?
あれ?あれあれ?
真世って言った?
そう言えば喫茶店でも真世って言ったような?
でも、まあ、ほら、真世って良くある名前だし、あの真世じゃないよ。
うん、きっと違う。
「……真世って名前なんですか?」
でも、まあ、確認?
「はい。今泉真世」
佐々木さんは俺に写真を見せた。
……………………………………真世じゃん……。
写真には制服姿の真世が。
ああ、もう!あのクソガキは何やってんだよ!
「本気になっちゃったんですねコイツに」
そんな言葉しか出てこない。
「本気になってしまって自分でも信じられない」
全くあのガキは………。
確かに先生とも…とか、あの時言ってたもんなあ!
「一目見たらお別れ出来るんですよね?」
本当はあまり関わりたくないけど仕事だし、佐々木さんには大切な人だからなあ。
たとえクソガキでも!
「多分。彼と会えるようにしてくれるんですか?」
佐々木さんは涙で潤んだ瞳で俺を見つめる。
「はい。」
大きく頷く俺。
「……でも、警察とか……あ、彼にどうやって近付くんですか?」
頼んできた佐々木さんはいきなり弱気。
やっぱり会えるとなると戸惑いも出るのかな?
「大丈夫です。任せて下さい」
安心させるように俺は微笑む。
佐々木さんとは連絡先を交換して、とりあえず彼を帰した。
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