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逢いたいが情、見たいが病 5話
な、何だよ、俺が悪者扱いみたいな。
うっすら涙さえ浮かべて俺を見る楠木。
コイツのこんな顔初めてみる気がする。
小生意気で、元気で…いつも、先輩、先輩とうるさかった。
俺がどんなにあしらっても、こんな顔しなかったのに。
「あ、いや、あの、その、なんだ」
どんな言葉をかければ良いかなんて分からない。
めちゃめちゃ挙動不審だと思う。
目、合わせられないし。
しばしの沈黙。
ど、どうしよう。
かなりテンパり始めた瞬間、
「くっ、……あははははっ」
楠木が笑い出したじゃないか!
気が狂ったのか?
俺は楠木を見上げた。
「あはは、先輩可愛い!」
楠木、爆笑中。
え…………っと?
「めっちゃ挙動不審だし、本当可愛い!」
そう言うと楠木は押さえていた手を離して俺を抱きしめるように覆い被さってきた。
「おわっ」
ガシッとキツく抱き締められる。
「先輩が全然変わってなくて安心しました」
抱き付いたままの楠木。
いやいやいや、離れろやし!
楠木は俺から離れて起き上がり、ついでに俺の腕を引っ張り起こした。
あっ……えーーーと、
何?
いったい何?
まだ笑っている楠木は、
「きょとん顔も萌えますね先輩」
なんて言いやがるし、
「すみません、冗談過ぎましたよね?」
とか謝り出すし、 何だよ?
えっ?冗談?
「えっ?今の冗談?」
確認する俺に頷く楠木。
うそ、 なに?冗談って?
「えっ?マジで?冗談で押し倒すの?はっ?意味わかんねー?」
「先輩、まだテンパってます?」
楠木は俺の前で手のひらをヒラヒラ上下に動かす。
「て、テンパってねーし」
「テンパってますね。本当すみません、冗談が過ぎましたよね?」
楠木は真顔になり頭を下げる。
「べ、別に……」
「はいはい、テンパってないんですよね?はい、とりあえず飲み物で落ち着きましょう」
楠木はコーヒーが入ったカップを俺の手に持たせた。
「改めて久しぶり先輩」
頭をペコリ下げる楠木。
こんちくしょー、こっちはテンパってんのに余裕ぶっこいて!
むう~とした顔で楠木を見る。
するとコイツってば笑いだしやがった。
「何笑ってんだよ」
さらにムッとして睨む。
「先輩、本当に学生時代と変わってないですねえ、その膨れっ面とか可愛いままだし、睨んでも全然怖くないです。むしろ萌ますよ」
楠木は笑いながら俺の頭を撫で撫でとかしちゃってさ、
「お前、俺は怒ってんだぞ!それに撫で撫では止めろ!」
バシッと手を叩いてやったぜ。
「あ~、もう先輩、その可愛さ反則」
楠木は反省する気ゼロみたいだ!ムカつく!
「だからバカにすんなって、可愛いとか三十路野郎に使う言葉じゃねーし!」
「だから、その仕草や言い返しが可愛いんですよ。先輩って昔っからそうですもんね。どれだけ自分が男を萌させるか気付いてないし、可愛いくせに色気あるから襲いたくなるし、あの頃先輩の貞操狙ってたの俺だけじゃないって気付いてました?」
「は?何ソレ?」
俺はキョトン。
楠木に追いかけ回された記憶しかない。
おかげで女子から、特に腐女子から楠木君と付き合ってあげてよ。とか言われたし、彼女出来ても何故か直ぐに振られてたし、あまり良い思い出がない。
「俺が全力で阻止してたんですよ。良く先輩って男子から相談あるとか呼び出されてたでしょ?覚えてます?」
そう言われ、ちょい記憶が蘇ってきた。
確かに同級生やら先輩やら下級生やらに相談乗って欲しいって言われたなあ。
「うん、それが?」
「呼びだされる場所も覚えてます?」
「えっ?あー…えっと、図書室とか視聴覚室とかかな?」
「あと、体育倉庫とか部室とかでしょ?呼び出された場所は普段誰も使わない場所ですよね?」
「あ、体育倉庫とかもあったなあ。…でも、不思議じゃないだろ?相談なんだから人が居ない方が良いし」
俺の答えに楠木はあからさまにため息をつく。
失礼だぞ、こんちくしょー!
「本気で先輩を今アホだと思いました」
しかも、失礼な言葉!
「お前なあ!」
怒る俺に、
「人が来ないイコール襲う…つまり、呼び出した奴ら先輩を無理やりヤろうとしてたんですよ」
…………と言った。
はい?
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