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9話

「久しぶりの患者だから茶飲んでいけ。」 ほんわかとした口調なのに、命令形な孫七じいさん。 俺らの返事は聞かずにプルプル震える手でお茶を入れようとするが、ぶちゃっけ、湯のみに入った量より、こぼした量の方が多い。 「俺がするから、じいちゃん座ってろよ」 見るに見かねて俺は孫七じいさんの代わりにお茶を入れる。 「しかし、細い子やなあ。もっと食わんと。おなごはオッパイと尻が命じゃけ」 孫七じいさんはケイ少年をジロジロ見ている。 おなご…。 女子に見えない言もないもんなあ。 「孫七ちゃん、この子男の子」 佐伯さんがそう言うと、孫七じいさんは、 「ほお、どうりでオッパイがペッタンコだと、そうかあ、男の子かあ~で、どっちの子供だ?」 孫七じいさんは俺と佐伯さんを交互に見る。 「仁の恋…」 佐伯さんが言おうとする言葉を遮るように彼の口を手で塞いだ。 恋人。って言うつもりに違いない。 「仁の鯉?何じゃ、鯉の養殖始めたんか?」 孫七じいさん恋違いだよ。 「この子は俺の甥っ子なんだ。暫く預かる事になってさ」 佐伯さんの口を塞いだままに嘘をつく。 「甥っ子?仁と血繋がってんのかえ?ほお、提灯に釣り鐘じゃな」 孫七じいさんは俺とケイ少年を交互に見る。 「提灯に釣り鐘?」 ケイ少年は意味が分からずキョトンとする。 「月とスッポンと同じ意味だよ」 佐伯さんは物知りだ。 ぶちゃっけ、俺も意味分からなかったよ。 比べようが無いとか、そんな意味だっけ? って、かなり失礼だよな孫七じいさん! 「薬出しとくからな。抜糸もちゃんと来いやあ」 孫七じいさんは手のひらを俺の前に出す。 「あ、いくらだっけ?」 「3千円」 「安っ!保険ないのに」 佐伯さんが言った、近い、早い、安い、は間違っていなかった。 俺は金を払うとケイ少年をおんぶして病院を出た。

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