82 / 326
鬼に金棒 5話
「悪いな信長、仁は諦めろ、俺が幸せにする。まさに俺の俺による仁のための愛…government of the people, by the people, for the peopleってわけよ」
「ピーポ、ピーポ、って救急車かってーの!それにアンタみたいな変態に言葉パクられたリンカーン大統領が気の毒だわ」
ママはぷいと横を向き、
「でも、諦めない!略奪愛って燃えるのよ。この恋の炎は仁以外に消せないの」
いや、今すぐ諦めて下さい!
「パパ」
可愛い声がして男の子が店内へ。
「真世、そうだったわ仁を呼んだ用件忘れる所だった」
店内へ入って来たのはママの息子の真世って子でママには似ていない美少年。
「この前はどうもすみませんでした。迷惑かけて」
ペコリッと頭を下げる素直さ、きっと奥さん側のDNAが強いのだろう。
真世が来た事で俺と佐伯さんはようやくソファーに座れた。
「仁の事で熱くなっちゃってね、呼び出した内容がすり替わっちゃったわ。ベッドで熱くなりたかったけどねえ」
ママは俺の輪郭を指先でナゾった。
「あーほら、子供見てます!ガン見されてるから」
真世が俺をガン見している。
「こら、俺の許可なく仁を見るなって」
「ちょっとどさくさ紛れに俺のとか言わないで!チンコ入れただけで偉そうに!私だって入れてあげるわよ」
「あー、もう話が進まないっ!俺、帰るからな」
佐伯さんとママの間に入る。
「すみません、パパ、ちょっと見境ないんで。あのですね。呼んだのはパパのストーカーの話なんです」
真世が仕切り直してくれたんだけど、
「はあ?」
と俺と佐伯さんは顔を見合わせる。
「ストーカーって真世だろ?」
佐伯さんの突っ込み。
「確かにマンションまでつけたのは僕です。店の前に居たのも、でも、抱きついたり、郵便物漁ったりはしてないんです。」
「つまり?」
と俺は聞く真世の説明だと、
「犯人は別にいます」
「マジで~、えー面倒くさい!真世が犯人でいいやん、もうさノブ強えーじゃん」
嫌がる佐伯さんに俺も同感。
「だまらっしゃい」
ママの一喝。
「今夜から泊まり込みで犯人見つけて貰うわよ」
鼻息も荒くそう言ったママ。
「お前、仁襲う気満々やんけ」
「アンタは黙って!」
佐伯さんの言葉にまた一喝。
「仁、断れないわよ。何故なら前金を既に払っているから」
ママは俺の顎を指先で上にクイッと上げた。
「は?俺貰ってな…………まさか美沙?」
「イエスよ。」
あんのクソ女!
「仁に言う前に美沙ちゃんに話たのよ。そしたら仁が断れないように先払いしたら?って言うから」
あああっ、もう!
「じゃあ美沙に頼めよ」
「か弱い女子にそんな危険な事させる気?」
ママは俺を睨む。
「あいつ強えーよ!元レディースだし、だいたい、何で俺に金入らないのにタダ働きしなきゃならんわけ?」
なんだかもう理不尽過ぎて泣けてきちゃう。
「大丈夫、違う金なら入れてあげるから。きゃっ、言っちゃった」
きゃっ、言っちゃったじゃねーよ!
なんだかもう俺ヤラれるフラグ立ってんじゃん!
「断るならこの前のお金もツケも今すぐ払って貰うわよ」
「うわっ、ちょ、詐欺じゃんそれじゃ」
でも、睨まれる俺。
理不尽過ぎてある意味清々しい。
「俺も泊まり込みすっから、ツケ、チャラにして」
佐伯さんが便乗してきた。
「えーハルはいらなーい」
ママはぷいと横を向く。
「俺が一緒なら仁も来るぜ?なっ?」
「ツケの為に俺を売るの止めて下さい」
佐伯さんをキッと睨む。
「俺が守ってやるから」
耳打ちされても佐伯さんは信用出来ない!
「あの、僕もお2人来てくれたら頼もしいです。今、パパの所から学校通ってるんですけど、塾で遅くなった日とか怖くて」
真世は怖ず怖ずとそう言った。
しかも小さく震えて。
ママは大丈夫だけど、この子とかは危ない。
こんな華奢な美少年を変態はたまらんだろうし。
もしかしたら、ストーカーされてるのはママじゃなくて、この子かも知れない。
一瞬、ケイと重なって…………って、泊まり込み無理じゃん!ケイが居る。
「泊まり込み無理!子猫の面倒みなきゃ」
そうだ、これなら佐伯さんも同意してくれるはず。
ともだちにシェアしよう!