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エルマーたちが無事城壁の外に出たようだ。 市井に蔓延るジルバの兄弟たちの情報は、いつも早く、そして的確である。 国葬の後、グレイシスは体調を崩した。無理もない、ずっとスミレの花に閉じ込められていたのだ。久しぶりの外界に戻ってきたかと思うと、即座に国葬である。ダラスの祈りの言葉を聞きながら、グレイシスは倒れそうになる体を意地だけで立たせていたのだ。 「まったく、こんな調子で戴冠式などにでれるのか。」 「でるさ、しかし…衣装などもないからな…仕立て屋に頼もうにも間に合うかどうか…」 柔らかな寝具の上、グレイシスは熱で赤らんだ顔でありながら、不遜な態度はかわらない。難しい顔をしながら、次のことを考える忙しい男はジルバ以上に働きものである。 「安心しろ。手配なら済んでいる。」 「なぜ…」 「ルキーノだとしても、体格までは変わらぬよ。だからそれで寸法を取った。デザインを選んだのは俺だがな。」 「………。」 お前が選んだのか。と、そのことだけがグレイシスの耳の奥に残った。 特に気にしないという具合にちいさく頷くが、このジルバという男は、なかなかどうして察しがいい。もぞりと身を寝具の中で動かし、背を向けただけなのに楽しそうに喉奥で笑う。 「グレイシス。」 「なんだ。」 きしりとベッドの軋む音がした。沈み込んだマットレスから、覗き込まれているのだと言うことがわかる。 「グレイシス、こっちを向け。」 「向かぬ、いやだ。」 「耳が赤いな。嬉しかったのか。」 「…黙れ。」 そう言って、図星を疲れたことに歯噛みする。 ルキーノと入れ替わっていたとき、グレイシスは気が気ではなかった。 この半魔の男は、非常に読めない。人のことを出会い頭に犯してきたと思えば、いまや側近の立ち位置にいる。普通なら打首だ。グレイシスのレイピアがそれはきれいに四肢を分けていてもおかしくはない。 おかしくはないのだが。 「グレイシス、つれぬ事を言うな。夫が妻の衣服を選んでも、何もおかしくはないだろう。」 「だから、俺は貴様の妻などでは…!」 その発言が気恥ずかしくて、思わず抗議するつもりで声を荒らげた時だった。 「ふ、口調が移ったな。それだけ慣れたということだろう。」 俺、と言っているぞ。 ジルバがグレイシスの細い肩を寝具の上に縫い付ける。仰向けになったグレイシスは、面白そうに灰の瞳を煌めかせるジルバに見下されるのが擽ったくて、思わず顔を背けた。 はっとする。何も、背けなくても良かったというのに。 今更そんなことを思っても致し方ない。紛れもなく、寝具で見下される形になったグレイシスは、文字通り蜘蛛の糸で絡め取られた哀れな餌でしかない。 「グレイシス。お前の夫は誰だ。」 「夫など、できたことはない。」 「散々、この薄い腹に分からせただろう。不器用なグレイシス…」 「っ、おもい…!」 その耳朶に、ジルバの甘やかな声が侵入する。この男の声はいけない。背骨を溶かすような毒なのだ。ふるりと身が震えてしまいそうなのを堪える。 寝具越しだというのに、跨がられればグレイシスのその身の奥の抗いがたい熱が、曝け出せと叫ぶのだ。 「お前は俺の雌だ、グレイシス。蜘蛛の本能だ。雄は自身の根城を持たぬ、雌の巣の中で暮らすのさ。」 「市井に、隠れ家があるだろう…!」 「そこでは抱かなかっただろう。やはり抱くのなら、雌の巣の中でなくては。」 「まて、熱が…!」 気がつけば、グレイシスの下肢は熱くなっていた。ジルバが楽しそうに笑いながら、グレイシスの身に被さる寝具を下から剥がす。慌てて足を閉じたはいいが、閉じた両足ごとジルバの腕に抱えられ、尻を上げる形になってしまう。 「熱がでても、お前は仕事をしようとしていたのに、繁殖はできぬというのか。」 「繁殖とかいうな!子は成せぬことを、貴様がよく知っているだろう!」 「知っている。だが俺はお前を抱く。抱きたいから抱く。番いたいから番う。」 ジルバが身を屈ませると、反動で尻がさらに持ち上がる。グレイシスはその体制に羞恥を覚えた。まるで赤子が世話を焼かれるような、その体制に。 「わ、かった…わかったから!足を…!」 「何がわかったのだ、俺の愛情か?それなら重畳。」 「貴様は、愛と欲を履き違えている…!ただ、遊んでいるだけだろう!?」 「ほう、」 グレイシスがそう叫ぶと、ジルバの目が細まった。こころなしか先程よりも声のトーンは低く、何も間違えていないはずなのに、グレイシスの尻の座りが悪くなる。うろ…と目線を泳がせ、悔しくて、やはり顔を背けた。 だって、そうにちがいないのだ。この男は、一度も愛しているなどと口にはしない。 身体は解かれても、心までは差し出したくはない。これがグレイシスの矜持だった。 「雄は、雌にいつも手土産をもってきていた。それが餌でも、価値のあるものでも、魔物の残骸でも、まあなんでもだ。」 「なに、いって…」 「俺は父王の首を差し出したぞ、グレイシス。」 美しい緑の瞳が見開いた。 ジルバが真っ直ぐに見つめ、そして気づけば足を解放された代わりに、その間に収まっている。 ふるりと、我慢していた身が震えた。 「俺は、お前が憎んでいた父王の首を差し出したぞ。」 蜘蛛の手土産は求愛行動なのだと、以前ジルバが言っていた。まさか、こいつは本当にそういう意味で…と思うと、唇が戦慄いた。 「皇后も、もうじきだ。グレイシス、まだ足りぬか。なら次は、国盗りでもするか。」 「お前、ほんとうに…」 「さあな。お前の好きなように解釈すればいい。俺の気持ちは、俺が知っていればいい。」 クスクス笑う。先程の嫌味な笑い方ではない。そんな、どっちがつれないことを言っているのだ。 じわりと染み込む。毒のような甘さが身のうちを侵す。 「グレイシス、」 「…かまわぬ」 「そうか。ふふ…」 口数は多くない。グレイシスは、殻が外れないままでは本音をさらけ出せないのだ。 ヤドカリみたいなやつだなあ。そんな不躾なことを言われたとき、グレイシスはあんな愚鈍なものと同じにするなと吐き捨てた。なによりも、あの引き籠もりのような姿が嫌いだったのだ。 しかし、その例えはあながち誤りではないのかもしれない。 「余は、まだ外殻をかぶっているのか。」 体が熱い。熱だけではないのかもしれない。 「余などと、取り繕っているようだしなあ。俺の前では、その殻を脱ぎ捨てろ。」 「っ、それで…どうなる…」 首筋を大きな手で撫でられる。この手で首を絞めることもできるのに、こいつはそれをしないのだ。 「俺が喜ぶ。」 鼻先が触れ合う距離で、ジルバが小さく口元に笑みを称えた。 「ふは、…それは…っ、あ、あ…」 それは、いいかもしれない。 いつも作り物めいた顔で、厭味ったらしい顔しかしないのだ。その男が、俺の前で笑うのはいい、かもしれない。 べろりと首筋を舐めあげられる。ツンと立った胸の頂きを、褒めるようにして指の腹で撫でられた。 ちゅ、ちゅ、という可愛らしいリップ音を、この半魔の男が出しているというのが既に面白い。 グレイシスはゆるりと足を閉じてジルバを挟み込む。褒めるように頭を撫でられれば、その瞳に蜂蜜の様な甘さが滲んだ。 細腕を絡ませ、そっと頬を重ねるようにして擦り寄ると、ジルバの熱い下肢が股座に押し付けられる。 「お前が人で良かった。アラクネなら、俺の首は今頃食いちぎられていた。」 「く、お前は…雰囲気を壊すな。」 「ふふ、すまない」 頭を撫でながらそんなことを言うものだから、グレイシスは思わず吹き出した。ジルバも、なんだか楽しそうにクツクツと笑う。いいなあ、こうして笑っているときが、一番…と思ったが、口にはできなかった。 「あ、ああっ…!」 べろりと耳朶を舐め上げられ、その背筋が震えた。腹筋を震わし、滲んだ先走りの量が隠せないほど下肢を濡らした。グレイシスは、もう完全にジルバの雌になっていた。 「ああ、いいな。うむ、やはりお前が一番いい。」 「いちば、ん…っ、んあ、っ…」 誰と比べているとムッとしたが、大きな手のひらで股座を押し込むようにして揉み込まれて、言葉は続かなかった。悔しくて、少しだけ睨む。ジルバは嬉しそうに微笑むと、ぱくりとその高い鼻に甘噛みをした。 「人の嫉妬とは、甘美なものだなあ。」 「ひぁ、っ!おま、え…性格が、わるい…!!」 漏れ出た先走りが尻のあわいを塗らす。グレイシスも知らない腹の奥が、もう既に準備を始めていた。 雌にされるという期待と、小さなプライド。揺さぶられて前後不覚になるのはわかっているのに、こうも主導権を握りたいと思うのは、自分が王になるという自覚があるからだと信じたい。 「くそ、…んぁ、っ…」 「熱のせいか、体が熱いな、…きっと腹の中側も、さぞ気持ちが良いのだろう。」 「ジル、あ、あっそ、そこ…っ…!」 下肢の布地を全て取り払われる。ふるんと期待に揺れた性器が外気にさらされると、グレイシスの薄い腹筋がひくんと緊張した。 ジルバの黒い左手が、そっと優しく素肌を撫でる。枕の横に肘を付き、まるで覆い被さるように至近距離でグレイシスの様子を見つめる。 ジルバは、プライドの高いグレイシスが、己の手で解かれていくのを見るのが好きだった。 ああ、かわいい。このエメラルドのような美しい瞳が、欲を孕んでとてもうまそうに見える。 そっと甘やかすかのように唇を重ねる。頭を撫で、何度も唇に吸い付いては、時折舌を絡ませる。くふんとあえかな吐息を漏らしたグレイシスの背筋に手を回し、そっと胸を反らせるようにして持ち上げる。 ふくりと主張する、薄い色味の胸の頂は期待したようにツンとたち、声をこらえるかのようにその指を甘く噛んでいた。 「グレイシス、」 「ん…、…」 「そうだ、偉いぞ。」 額に、ジルバの唇が触れる。その突起に吸い付きながら、素直に足を開いた雌を褒めそやす。 この男は、褥でグレイシスをどろどろに甘やかし、幼子を褒めるようにして愛すのである。 瞼に口づけ、鼻先を摺合わせ、その瞳に己が映るのを好む。 にゅく、と侵入した長い指が、そっと探るようにして内壁を蠢く。真一文字に結ばれた唇を舌で舐めあげると、甘えたな声が漏れた。 「じ、る…っ、ぁ、あっ…ぉ、おく…も、っと…」 「焦るな、きちんと与えてやる。ああ、可愛い、お前は、本当に愛らしい。」 「ん、んんっ…」 じわりとジルバの指の動きを助けるかのように先走りがとろとろと指を濡らす。ちゅくんと粘膜が甘やかされる音を耳で拾うたび、グレイシスはぴゅくりと漏らす。 ひたりと熱い性器が引くつく蕾にあてがわれる。挿入を伴う行為は、これで2回目だった。 「い、いれる…?やだ…よ、こわい…っ、…」 「怖くない。お前の腹の奥まで、とびきりあまやかしてやる。」 「ふぁ、あっ…あ、ぁう、うそ…ゃだ、や、やあ…あ、っ…」 膝裏に手を添えて持ち上げる。前をくつろげ取り出した性器を、グレイシスの静止も聞かずに挿入した。 一度目は、硬直した父王の目の前で激しく犯した。だれの雌かをわからせるためにだ。あの時は少々激しく抱きすぎたせいで、グレイシスはベッドを使い物にならなくさせ、そして赤子のようにわんわんと泣いた。美しく、そしてあまりにも無様なその様子に、ジルバの心はひどく満たされた。抜けていたパズルのピースをはめ込むかのように、その存在はかちりと隙間に嵌まったのだ。 「ん…、」 「は、ぃ…っちゃ、…った…、あ、あ…」 はふりとしたジルバの吐息に耳元をくすぐられる。言い分を無視して挿入をはたした性器の質量が、グレイシスの薄い腹の内側で存在を主張する。 入り口は痺れたように感覚はないのに、中の媚肉の蠕動によって、そのジルバの性器をもてなすかの様に甘く刺激する。眉間にシワを寄せたジルバが、そのたまらない蠢きに耐えかねて、ゆるゆると性器を先端まで引き抜くと、グレイシスの様子などおかまいなしにバツンと腰を強く打ち付けた。 「ひぎ、っ…!ァ、あ、や、やああっあ、だめ、ぇ…だめ、ジルバ!!あ、ア!!イぐがら…っ…!!」 「許さぬ、まだ耐えろグレイシス。」 「イぐ、ぁ、あっ、だぇ、っえ、ぁあっむ、むり、でちゃ、う、ぁあ、あーー!!」 ジルバによって鷲掴まれた腰に動きを縛られ、グレイシスはその目に大粒の涙を溢れさせる。ろくな抵抗もできず、唯一自由な上半身は、余りの快楽にのたうち回るようにその身を捩らせ鳴き叫ぶ。 その白い喉元を晒し、胸を突き出すように仰け反ると、その張り詰めた性器から押し出すようにしてどぱりと精液が溢れ出した。 かくん、と腰が射精に伴い揺れ動く。役目を果たさない精液が、グレイシスの袋を伝い結合部を濡らすと、ジルバがそのだらしない射精をみて小さく笑った。 「待てといったろう、躾が必要かグレイシス」 「あ、ぁっや、やだ…きもちいの、やだ、あ、ま、まっ、まってぇ、えっい、いやぁ、あっア!!」 「まだ俺がイっていない。つれないことをいうな、最後まで付き合え。」 「いやぁ、あだめ、えっ!!は、げし、の、ぁ、あっあー!!」 ぱつぱつと鷲掴んだ腰を引き寄せるようにして激しく腰を揺らす。情けなく精液をぴゅくぴゅくと飛ばしながら、グレイシスは律動のたびに性器を跳ねさせた。泣きわめくように首を振りながら、直に神経を焼かれるような鋭い刺激に耐えきれず、グレイシスはわけがわからないままシーツを握りしめてはその快楽を追いかけるのに必死だった。 「くふ、漏れているぞグレイシス、粗相はいつまでで立っても治らぬな。」 「でひゃ、た…ぁ、あは、っ…んひ、っ…も、もうゃ、やぇ、やぇて…ぁ、あイぐ、も、でないからぁ、あっ…お、っ…!」 ジルバの性器が、刺激で鞠のように膨らんだ膀胱を押しつぶした。尿道をかけぬけ、焼け付くような熱を伴いながら腰を震わせ失禁をしたグレイシスは、もはや快楽に浸され馬鹿になった脳で、考えることを放棄する。 ああ、きもちいい。この男の腕の中で、すべてさらけ出すことの心地良さよ。 取り繕わなくて良いのだ。ありのまま、本能に従っていいのだ。 片手間に慰められる性器への刺激は、雄としての自覚を持たせるのに、その内壁でジルバの性器をおさめてしまえば、自分が雌になってしまう。 ジルバの背に必死で縋り付きながら、揺さぶられて奥を開かれることが、こんなにも嬉しいのだと自覚してしまってからは、グレイシスはそれが悔しくて仕方なかった。 ああ、塗り替えられていく。死んだ弟に抱いていた未練たらしい思慕が、この男の甘やかな毒によって、じわじわと溶かされていくのだ。 ジルバの黒い左手が、そっと愛おしむようにグレイシスの頬に添えられた。その表情を逃さぬと言わんばかりに、熱のこもった眼で見つめられるのだ。 「俺も、だす…、…っ、」 「ひぁ、っあぁ、あじ、じるば、っ、じぅ、あ、あっあー‥!」 「ぁ、く…っ、」 抗えない体の熱に飲み込まれながら、締め付けた勢いでジルバがグレイシスの胎内に吐精する。じわりと広がった腹の奥の熱。 いとけなく涙をこぼして身を震わしたグレイシスの体を、ジルバはまるで大好物を抱えて貪るように、そして見えない糸で動けぬようにと縛り上げるかのごとく強く抱きしめながら、再びの行為を強いるのだ。 グレイシスはしらない。この行為こそがアラクネの求愛であることを。 そしてジルバも語らない。薄い愛の言葉など。 それでも、露骨な愛情を求めるグレイシスのその面倒臭い性格を愛しく思ってしまうから、こうしてジルバはやり過ぎる。 結局、熱が治らずに戴冠式を一日ずらす羽目になるのだが、さんざんグレイシスから怒られたジルバだけは、謎に誇らしげだったとか。

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