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やっぱり、しかたなくなんだ。 ユミルはわかっていたことではあったが、やはりレイガンにとっては自分は面倒くさい男なのだと自覚して、はらはらと涙を零す。 「…すまん、今のは違う。」 「な、いて…っ、…ごめ、…」 「ああ、あまり泣かれると、どうしていいかわからなくなる…」 途方にくれたと言わんばかりのレイガンが、ユミルの目元を拭う。嫌われたらどうしよう。やら、言葉にしろなんて女々しいこと、言えるわけもない。など、そんなユミルの中での複雑な感情が涙となって視界を歪ませる。 自分がレイガンだったら、面倒くさすぎて帰っている。ユミルは、律儀に泣き止むまで待ってくれているレイガンを見て、またいいなあと思ってしまうのだ。 「ユミル、この際だから言っておく。」 「やだぁ…」 「ヤダじゃない、聞け」 「いや、だ…!き、嫌いになったんだろ…っ、」 「ちがうバカモノ。」 レイガンの下でふるふると首を振って拒絶するユミルに、レイガンがその手を押さえつけるように指を絡めてベッドに縫い止める。 「っん、ンー‥!」 「っは、落ち着け。人の話を聞け、いいな。」 舌に吸い付かれ、窘められるように甘噛みをされた。ユミルの家の天井が、レイガン越しに見える。こんなボロ屋の天井を背景にしても、この男はこんなにも格好いいのかと、濡れた瞳で見つめ返したレイガンを見て、そんなことを思った。 「俺は、…お前のその面倒くさい所も、こ、」 「こ…?」 はく、とレイガンが口を震わせる。なにかいいかけたのを止めたくせに、酷く悔しそうな顔をして口を引き結ぶ。ユミルの額に己の額を重ねると、意を決したように口を開く。 「こ、好ましく…思う。」 「へぁ…」 もにょ、と口を動かして、明日世界が終わるんだと言うような重々しい口調でそんなことを言う。 ユミルの瞳が揺れて、一粒、二粒と涙を零すと、心底弱々しい声で、頼むから泣くな…と言われた。 「俺は、その…あまり睦言を言うのが得意ではない…。」 「うん、」 「お前が、何を求めてるのかはわかっている。」 「うん、」 レイガンの熱い素肌がユミルの体とかさなる。覆いかぶさるように優しく抱き締めると、酷く口下手なレイガンが、一生懸命思いを口にする。 「囲いたい。」 「は?」 「できることなら、閉じ込めてやりたい。お前は奔放だから、俺の目の届かないところでなにかやらかすんじゃないかと、気が気ではない。」 「ふ、ふは…っ、」 真顔だ。しかも、酷く真面目なトーンで言う。これは、独占欲だろうか。 好きだと言われるよりも、これは少し、嬉しいかもしれない。 ユミルはじわりと頬を染める。その赤らんだ顔を見て、レイガンがちいさく笑う。 「待ってろ。帰ってくるまでオイタはするな。」 「ついていきたい、」 「だめだ。危ない目に合っただろう。俺はもう、同じことを繰り返したくない。」 レイガンは怖かった。非力なユミルが危険な目に合うことを、良しとはしなかったのである。仲間の腹を刺し、動揺して揺らぐほどにはレイガンは弱かった。 そんな弱い男が、そばでユミルを守れるとは思わなかったからこそ、レイガンはついてくるなと語気を強めたのだ。 「帰ってくる頃には、また一回り男としてでかくなってくる。お前にはその時まで待っていてほしい。」 「寂しい、よ」 「そこは、悪いとは思ってる…。」 バツが悪そうに言う。それでも、今だけはユミルは素直に言葉にすることができた。 レイガンの薄い唇を食むように啄むと、その首筋にすり寄る様にして抱きつく。 「なら、レイガンの思っていること全部言って。それで、許してあげるから。」 「…わかった。」 そっと髪を撫でられた。レイガンはその頬に口付けると、口を開いた。 「返ってきたら、俺も牛乳屋をやろう。」 「あは、っ…似合わない!」 「何を言う。お前よりも重いものは持てるぞ。」 「でも、顔が良すぎるよ。」 「稼げるかもしれんぞ。あと、お前が喜ぶ。」 「あ、ばかっ、」 レイガンが牛を操る時点で既に面白い。ユミルは油断してしまう位けらけらと笑っていると、ぬるりと尻のあわいを撫でられた。 「そうして、笑っていろ。」 「ひぅ、っ!」 「そっちのほうが、かわいい。」 「え、…ぁンっ、!」 足を抱え上げられ、にゅくりとぬめりをまとった指が内壁を擦る。思わずきゅん、と締め付けると、仕返しと言わんばかりにぐにりと指を曲げられた。 「ぁア、やっ!」 「ここ?」 「ひ、ぃっ、あ、だめ、だめだめだ、ぇ…っ!」 「ここだな。」 中指と人差し指をくっつけるようにして、ユミルの蕾を解される。胡桃のような器官を、レイガンの指で押しつぶされる度に電気が走ったかのような痺れがユミルを支配する。これはだめだ。今までに感じ得たことのない充足感が、甘だるく重い熱となって腹の奥に溜まっていく。 「ひ、ぃあっ、ああ、あっん、や、ゎか、んぁ…っ…!」 「ん…ユミル、お前の声はいいな。」 「んやぁ、ぇ、っ…ひん…っ…」 「すごく、興奮する。」 「イ、ぁー‥!!」 だらし無く投げ出した四肢をびくつかせ、ぷしゅ、と吹き出すような音を立てながら精液を撒き散らす。欲を孕んだ紫が、その一瞬も逃さぬと言わんばかりにユミルを見つめる。 どうにかなってしまいそうだった。 尻に力が入らない。ぐにぐにと食むようにレイガンの指を締め付けては、自分のぬかるみから立つ粘着質な水音にまで感じてしまう。 ぬぷ、と音を立て、レイガンの指が抜かれた。締め付けるものがなくなったそこは、はくはくと媚肉を蠕動させながら名残惜しそうに粘液を垂らす。 レイガンはその尻の肉を掻き分けるかのように縁に親指を引っ掛けると、ぐにりと横に伸ばした。 慣らしたユミルの精液と、溢れてきたそれが指の動きで泡立つ。掻き出すようにして縁を甘やかすと、レイガンはユミルの膝に口付けた。 「まだ気をやるな、これからだぞユミル。」 「ま、まって…イった、ばっか…、」 「何を言う。」 震えるユミルの細い身体はピンク色に上気していた。薄暗い部屋のなかでもわかる。月明かりに照らされた白い体を組み敷きながら、レイガンは腹の奥に溜まる仄暗い欲望の滾りを持て余す。 「蛇に睨まれて、今更逃げられるとでも思うなよ。」 「っあ、…」 かり、と手首を噛まれる。レイガンの紫の瞳がきらりと輝く。瞳孔が鋭くユミルを射抜いた時、組み敷かれた白い体は雌へと作り変えられた。 そこからは、もう怒涛だった。 「や、ぁあっれぃ、あっ、ん!んぅ、あ、ひっ!」 ぱちゅぱちゅと水音が立つ。はしたないその音を聞きたくなくて、ユミルは耳をふさぎたかった。 しかし、両手首を大きな手で一纏めにされたまま激しく揺さぶられては、声も涙も体裁すらも放り投げて、快楽の涙で歪む視界にレイガンを映しながらなすがままになるほかはない。 先程までの、甘やかされるような優しい愛撫とは打って変わって、まるで貪り食うような激しいセックスに、ユミルはきゃんきゃんと喚くように喘ぎながらレイガンを受け入れていた。 「ひぃ、ぁあっあ、あん、ぅや、やら、ぁっい、っ、いっぐ、ぁあっあ、あーー!!」 「っ、くは…は、いい、ぞ…っ、なんだ、もっと…か…っ、」 「やぁあ、あ!い、いらぁ、いっ、いやぁ、あっらめ、ぇえっえっ!」 「ふ、つれないことをいう…、まだ、足りん…!」 「う、ぅぁ、あっああっ!あ、!あぁ、っ!」 なんだこれ。だらしなく開いた口から、だらだらとよだれを垂らしながら熱に浮かされたまま、ユミルは思った。 腹の中を何度も擦られて、弱いところもがしごしとレイガンの太い性器が押しつぶすように往復する。頭の中が、もったりとした濃厚なクリームに支配されてしまっているかのように鈍くなる。 乳首が尖り、内壁を収縮させ、何度と精液と潮を巻き散らす。 視覚でもレイガンを楽しませる優秀な雌は、ここまで前後不覚になるような激しい性感の本流に飲み込まれ、もう既に腹の中を精液で満たしていた。 「は、はぅ、ぁ、も、や、やぇて…ち、んち…も、やぁ…っ…」 「わるい、がっ…若いもんでな、っ…」 「ひ、あっバカ、ばかばかぁ、あっ!や、ひ、ぃいっ、お、おしまぃ、に、しへぇ…っ…!!」 「ん、ユミル…!」 レイガンの手がはなれる。シーツを掴んで後ずさりをしようとした細腰をが知りと掴まれると、そのまま一気に引き下ろされた。 「ぉ、っーーあァ、ひ…っ…」  「逃げんな、…っ俺のもんだろうが…!!」 「あぁ、あ!!き、もひぃ、や、あっ!そ、こらめ、ぇ、えっ!こんこんじないでぇえっ!!!」 髪を振り乱し、枕に涙と唾液をこすりつけるように乱れる。二人分の熱を吸収したシーツに素肌を撫でられるだけでもイきそうになるのに、冷静なレイガンが本能のまま粗野な言葉でユミルを貪り食うのだ。 こんな、こんな激しいセックスなんてしらない。 全身の神経を舐められているかのようにさえおもう。それほどまでに鋭敏な粘膜への刺激に、ユミルの蕾は馬鹿になってしまっていた。 ちゅぱりと喜んで太い血管を走らせた性器を、奥へ奥へと飲み込んでいく。自分の体なのに言うことを聞いてくれないのだ。 足を限界まで開かされ、小きざみに激しく抜き差しされる。 ぱちゅぱちゅという音に聴覚からも犯され、結合部位が摩擦熱でとろめく。 「ら、ぇ…も、ゃぁ…れ、が…も、やめ、へ…しんらぅ…っ…ふぇ、えっ、あー‥!」 「また、泣くのか…あぁ、かわいいなユミル…っ、はあ、気持ちがいい…ぁ、っ…かわ、いい…かわいい、っ…」 レイガンの感じ入った声が、ユミルの脳を刺激する。眉を寄せ、唾液を垂らしながら、整った顔を歪ませる。ああ、この男も僕で感じているのか。そう思うと、なんだか身のうちから沸き立つような甘い感情がユミルの涙を誘う。死んじゃう。死んじゃうくらい、しあわせだ、 この男の腕の中で、ずっと眠れたらいいのに。 ユミルはポロポロと涙をこぼしながら、レイガンのたくましい体に必死でしがみつく。 「れぃ、あ、っ…ん、んぅ、す、すき…や、すきだ、ぁっ、あんっ、いイっ…」 「くそ、っ…おまえ、は…!俺を駄目に、させるな…!!」 自分の手でとろめく素直な体に、若い雄の本能は馬鹿みたいに刺激される。小さな体だ、壊さないようにしようと思っていたのに、中に入ってしまえば、もうだめだった。 本当に自分が言っているのだろうか。今まで口にしたことの無いような甘やかな睦言が、勝手に口から出てしまう。かわいい。俺の、俺の雌だ。腕の中に閉じ込めて、大切に丸呑みしてやるんだ。そんな、抗いがたい欲求が、若いレイガンの身体を支配する。 もう、腰を打ち付けすぎてユミルの尻は赤くなり、レイガンは何度もユミルに唾液を飲み込ませ、絞るように性器を擦り、いやだと雌の声で泣き喚くユミルの胸の突起を弄りながら、バカみたいに貪った。 ユミルが気絶しても、喉を舐めあげ、肩に噛みつき、何度も奥を擦ってやると粗相をした。年上のかわいい男が、自身のベットの上で、自分の手によって人としての尊厳を奪われるのを見て、鼻血が出るくらいに興奮した。 ぽたりとユミルの頬についた赤に気がついてはいたが、茹だった思考では何も考えられなかった。 「れ、ぃあ…やぇ、へ…っ…ちんち、も、ぃらぁい…ひぅ、っ、…」 「く、は…っ…」 「ひぅ、うっ…!ま、た…でて、ぅ…っ…」 袋の中で、ぎゅるりと精液が作られる。揺さぶりながら射精し、それを塗り込むと腕の中の雌は尻から吹きこぼしながら喜ぶのだ。 ぽこりと膨らんだユミルの腹をそっと撫で、レイガンは垂らした鼻血をべろりと舐め上げる。汗ばむ額に張り付くうざったい髪をかきあげると、腰の下のシーツを、びしゃびしゃに濡らした虚ろな目のユミルが、抱っこをせがむように手を広げた。 「ユミル、…」 「お、ぃで…れい、がん…っ、…」 繋がったまま、尻からレイガンの精液を零しながら、ユミルはレイガンを抱きしめた。優しく汗で濡れた髪に手を差し入れ、そっと梳きながら甘やかす。 ユミルの体は、覆いかぶさったレイガンの体で隠れてしまうほど小柄なのに、尻から精液を垂らし、漏らし、人としての尊厳を脅かしているような端ない体で、年上としての矜持で甘やかす。 レイガンは小さな手のひらで頭を撫でられながら、垂れた鼻血をぺしょりと舐められる。 互いに肌が白いから、興奮で上気した素肌を同じ色に染め上げる。 そばかすがかわいい。レイガンはたまらなくなって、ユミルの鼻先に口づける。 好きだ、だめだ、はまってしまう。 眉間にシワを寄せた怖い顔をしているのに、ユミルはその頬に触れて涙目で笑うのだ。 ああ、すきだ。すきだ。 「すきだ、っ…」 かすれた声で、思わず出た。 薄緑の瞳を目一杯広げ、その瞳は月の光に反射して小さな宇宙のようなきらめきを宿す。 「綺麗だ、ユミル。月次な言葉しかいえんが、っ…すき、だ。」 ポロリとでた。本当に、なんの支えもなくポロリと。 「れ、いがん…や、だ…ひとりにしないでレイガン…!さびし、いっ…やだ、やだよう…っ、」 「恨んでいい、っ…酷い男だと、罵ってくれて構わない…俺は、お前に待っていてほしい。」 「ひ、やだ…やだあ…あ、あー‥っ…!」 首を振り、泣きながら胸を叩く小さな体を抱きしめる。ああ、だから嫌だったんだ。離れがたくなるから抱きたくなかった。キスだけで良かったのに、こんな。 「ユミル、戻ってくる。戻ってこなかったら、お前が迎えに来てくれ。」 「なんだよそれぇ…!!ばかあ!!」 「馬鹿でいい。だから、嫌いにならないでくれ…」 胸元にレイガンの顔が埋まる。酷く弱々しく呟く声に、今度はユミルがおどろいた。 「多分、死なない。約束はできないが、お前と暮らしたいから…俺は、頑張る。」 「レイガン、泣いてる…?」 「泣くものか、男だぞ…。」 「うそ、こっち向いて…」 「いやだっ」 ぎゅうう、ときつく抱きしめられる。ユミルは漸く、レイガンが泣けたのだと理解した。まさか、駄々をこねていたユミルではなく、諭すように語っていたレイガンが泣くものだから、ユミルはオロオロとした。 「泣かないで、レイガン…わかったから、僕は、ちゃんと待っでるから…お前が泣くと、僕まで…っ、」 ずびりと鼻を啜る、レイガンが目元と鼻の頭を真っ赤に染めた可愛い顔でユミルを恨めしげにみやる。 宝物を離さないと言わんばかりにユミルをきつく抱きしめると、むすくれた口元が可愛くて思わず啄む。 「決めた、俺は、明日の夜の出立までお前といる。お前を離さないし、徹底的に甘やかしてもらう。体裁なんてしるか。どうせ帰ってくるまで時間がかかることは明白だ。ならば俺には年相応に甘える権利がある。そうは思わないか。」 「お、おう…キャラ変わってないか、レイガン…」 「うるさい。俺は今お前より年下のただの男だ。」 「ふは、なんだよそれ…」 ずび、泣き顔で何故かキレているレイガンは、ようやくユミルという宿り木に出会えたことで力が抜けたのだ。本来のレイガンは、ワガママだ。常に張り詰めていたレイガンは鳴りを潜め、恋人の腕の中で甘える唯の年下の男に成り下がった。 ユミルの前でしか見せない顔だ。かわいい、かわいくて、だれにもとられたくない。 「いいよレイガン、僕に甘えて、沢山甘えて。」 目元を染めながら、レイガンがすり寄る。頭を優しく撫でたユミルが、慈愛の瞳で見つめかえす。 「え、まって」 「やる。」 「や、やだやだ!ちょ、おおきっ…」 「お前が火をつけたんだから、責任を取れ。」 「ひぅ、あっや、やああーー!!」 甘やかされて、余程照れたらしい。レイガンは不遜な態度でユミルを再び抱き寄せると、静止を待たずに再び動き出した。 レイガンは若い。若いからこそ、久しぶりのセックスに溺れたかった。 腕の中のユミルが青ざめるのもお構い無しに貪ったおかげで、このあと赤い紅葉を顔に咲かせることになるのだが、そのことはまだ黙っておこうと思う。

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