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ユミルが思ったのは、レイガンはとにかく恋人には甘いということであった。
抱き潰された翌日、まあ今晩からレイガンが発つと言うこともあるのだろうが、なんというかこう、とにかくもう凄いのだ。
「若いからな。」
などと真顔で宣う。
「僕達3つしか違わないけど。おじさん扱いされてるみたいでなんかやだ。」
「何を言う。」
「わ、ばかばかっ、っー‥」
レイガンは、もはや限られた時間を堪能するかの様に、ベッドの上で裸のユミルを抱きしめながら頭を撫でたり、額に口づけたり、偶にすーっ、と息を吸い込んでは、これこそが至福と言わんばかりに感嘆とした吐息を漏らす。
思いを遂げたからといって、なんというフルスロットル。ユミルは汚れたベッドの上で、シーツすらも変えないまま長い手足に抱き込まれ、腰を撫でられながら腕枕をされていた。
「も、やだ…は、恥ずかしいよレイガン」
「恥ずかしくない。」
「せめて、シャワー浴びてベッドシーツかえない?」
「なんの問題もない。」
「汗臭いでしょ?」
「いいやまったく。」
馬鹿なのだろうか。と思うが、ユミルのこれは恐らく照れである。
ぐう、と腹を鳴らせば目ざとく聞き取り、お前はここにいろとしつこく念を押され、レイガンがベッドから抜け出して暫くすると、ガタガタと音がした。
なんだとおもっていたら、あろうことがユミルでさえ忘れていた使っていなかった低いテーブルを見つけ出し、ゴトンとベッドサイドに設置する。
「ベッドから出るな。」
「ええ、嘘でしょ…」
「今日は甘やかしてもらうぞ。ユミルが許したのだから、最後まで付き合え。」
そう言うと、設置したテーブルにリゾットやらスープ、カットされた果物を乗せる。すべてユミルの家にあった食材で作ったものだ。
どうやらレイガンは器用らしい。これらをぱぱっと作り上げてくれたのはいいが、何も身に纏わないで準備したようである。
「わ、」
レイガンがベッドに入ってくる。ユミルが粗相をしたその場所も、気にしないようだった。
まるで横抱きにされるかのようにして、ユミルはレイガンの足の間に座らされた。筋肉を纏ったしなやかな男の体が、まるで包み込むようにしてユミルを抱きしめる。カチャ、とカトラリーの音がして、ユミルの口元にチーズの香りがするリゾットを運ばれる。
頬を染め、ちろりとレイガンを見上げると、片眉を上げてなんだ?という顔をする。自分で食べられるのになあ。そう思っていたら、ふーっ、と冷まされて再び口元に運ばれる。
「か、介護じゃないんだから…」
「そうか、ならこうしよう。」
耳まで赤くしたユミルを見て、ぱくりと匙をレイガンが咥える。自分で食べるのかとキョトンとしたのもつかの間で、すぐその唇がユミルのそれと重なった。
にゅく、と口の中にリゾットと共にレイガンの舌が侵入してくる。
ぬるりと絡まされ、ほのかなチーズの香りとコショウの効いたそれをこくんと飲み込むと、ちゅ、と音を立てて唇が離された。
「も、…っ!」
「手ずから食わんのなら、全部口移しにするぞ。」
「うわあ…」
まじかよである。ユミルは、どうやらレイガンの甘えるは、甘やかすも兼ねているらしいということを理解した。ちぅ、と吸い付くように頬に口付けられ、ひくんと肩を揺らした。甘い、甘いなあ。供給過多すぎる。
レイガンはその怜悧な美しい顔にご機嫌さをにじませながら、まくまくと己の作った料理を食べるユミルを見る。
そのくせ自分が食べたいと思ったときは、まるで奪うかのようにユミルの口の中を荒らして食べる。
結局口移しするんじゃん、そう思いながらも受け入れてしまっている自分も大概だが。
「ふ…、んん…」
「はあ、」
収まりがいい。レイガンはユミルの肩に顔を埋めながら、ほう、と吐息を漏らす。このまま皮膚接触している場所から、ズブズブと取り込んで体の内側に仕舞えればいいのに。
そんな恐ろしいことを思いながら、うなじを赤くして大人しくしているユミルを見る。
後ろから抱きしめながら、なんとなくその小さな手を掬うようにして指を絡めた。小さな手だ。
レイガンは、この小さな手に甘やかされて駄目になった。
求めていたのかもしれない。こういう形で育めるなにかを、レイガンはずっと求めていたのかもしれない。
「レイガン、あつい。」
「溶けてしまいたいな。」
「うそでしょ、会話してよ…」
あぐ、と持ち上げた指先を甘噛みする。やらなくてはいけないことがあるとわかっていても、こうして現実逃避できる時間は大切だ。
はぐはぐとユミルの指先を口に入れて遊んでいるレイガンに、ユミルは変な癖ついちゃったなあと思った。
自分よりも男らしい体をして、背も高く、彫刻のように美しい男が、ぽやっとした顔でユミルの指で遊ぶ。
指の股を舐められるとだめだ。腰がぞわりとしてしまう。
一体いつまで口に入れてるつもりだこいつ、と思っていれば、齧っている指の場所が左手の薬指だと理解して、ユミルの頭は一気に沸騰した。
「なんだ、だめか?」
「す、すきにして…レイガンが楽しいなら、僕はそれで…」
「ああ、そうだな、…俺は浮かれているのかもしれない。」
血管の走る腕でユミルの薄い腹を抱えあげるようにして抱き寄せる。真顔で言う言葉じゃないだろうと思うが、変なところで子供じみている。くすくすと笑っている気配がするのに、その顔を見せようとはしない。
「好きだユミル、ふふ。」
「う、うー‥や、やだ。キャラ変わってる…」
「しばらく会えないからな。」
「うん、」
背中が熱い。きゅう、と胸が鳴る。レイガンの白い肌と自分の肌の色は似ている、くっついたからよくわかった。ユミルは、レイガンの腕にぺたりと手を添えると、ガントレットを固定している部分の皮膚が固くなっていることに気づいた。
「ここ、いたい?」
「痛くない。」
「硬いね、」
「皮膚が、擦れたからな。まあ、もうなれた。」
レイガンのガントレットは、毒針仕込だし、篭手代わりにもなっている。その左腕で衝撃を受け止めるせいで、何度も皮膚が破けて傷跡になっていた。
皮膚とガントレットの隙間も何度も破け、まるで境界を作るようにして色が変わっている。
それに比べて、ユミルの腕は生白い。なんとなく、ぴとりと腕をくっつける。レイガンがその仕草にきゅっと口を引き結ぶくらいには、きゅんとしたらしい。
「腕の傷もかっこいいなんて、ずる。」
「汚いだろう。」
「ううん、戦う男って感じ。」
さすさすと腕を撫でながら、ユミルがもぞりと動く。レイガンの胸板によりかかり、首筋に額をくっつける。胎児のように丸くなると、くん、と首筋に鼻先を擦り寄せた。
「首も、縫ったみたいな跡があるね。」
「これは、子供の頃に木から落ちた。」
「あっは、まさかの!腕白だったんだね。」
「ふ、ああ、そうだな。」
くすくすと二人で笑う。この時間が続けばいいのに、それもかなわない。
「午後さ、お出かけしようよ。レイガンだって旅支度するでしょ。デートしてよ。」
「でーと。」
「したことあるでしょ。」
「いや、ないな。」
エルマーとナナシの買い出しに付き合ったことはあるが、と言うとそれは違うと否定された。
「レイガン女の子と付き合ったことないの?嘘でしょ。この顔なら誰もほっとかなさそうなのに?」
「好きでもないやつと出かけられると思うのか。」
「…ねえ、まさかそれ本人に言ってないよね?」
「言ったな。」
はぐ、と切り分けたフルーツを口に含む。随分と昔に好意を寄せてきた女はいたが、結局抱いて終わりだった。まあ、その先が面倒くさかったというのもあるが。
ヒステリックな女は駄目だ。すぐに殴りかかってくる。一発食らうまでは許してくれないせいか、執念深い。一人旅のときのことを思い出して、思わず眉間にしわが寄る。
「一晩限りだという話だった。出かけるまでは約束していないしな。」
「レイガン、もしかして遊び人?」
「それをお前が言うのか。」
「ぐう…」
お互い様だろう。そう言う男が、蜂蜜のような目で自分を見ている。
「旅先で女抱いたら別れてやる。」
「付き合ってくれるのか。それは良かった。」
「ねえ、僕の話聞いてた?」
「聞いてた聞いてた。」
レイガンの大きな手が甘やかすようにユミルの指に絡まると、その体をベッドに寝かせた。
レイガンは跨るようにユミルの上にのしかかるので、まるで不平を申し立てるかのようにベッドが軋む。
絡ませた指をにぎにぎと遊ぶ。組み敷いたユミルの白い腹から胸元にかけて、レイガンの手のひらがゆっくりとなぞっだ。
「…なにぃ」
「ん?ふふ。」
「ええ、なんだよまじ」
ぐっと下腹部を押す。ぴくんと反応したユミルを見ると、レイガンが目を細める。
ああ、この捕食者のような目が好きだ。
「ここを許すな。」
「っ、ん…」
ぐり、と親指で腹越しに刺激されたのは、レイガンが奥まで入った場所だった。臍の下、こんな所まで届くやつなんていないのに。
くいっ、と臍をレイガンの指で引っ掛けられる。ユミルがひくんと腰を揺らすと、レイガンはその腰を掴んで、舐るようにそこを舐めた。
「っん、なに…どうしたの…」
「開けてもいいか。」
「あけ、る?」
何を開けるのか。よくわからなくてレイガンを見上げると、その血管の浮いた無骨な指で自身の下腹部をなぞる。人差し指と中指で挟むように臍を指し示したレイガンのその動きが、なんだか酷くいやらしいものに見えてしまう。
頬を染めながら見つめていたユミルは、その指先がレイガン自身の臍に触れると、ようやく言いたいことを理解した。
「ピアス?」
「ああ。」
レイガンの腹筋がきれいに付いた腹に、唯一の装飾があった。腹筋に挟まれているせいか、それともピアスが空いているせいか。少し横長の臍には紫の石が嵌っている。
セックスの時には気が付かなかったそれに、ユミルがそっと触れる。
「気づかなかったな…」
「激しく抱くつもりだったからな。来るときに外していた。」
「お、まえ…そんなこと言うなよ…」
「照れたか。」
「うっさい。」
少し太い針が、レイガンのへそを穿いている。
耳にするピアスとは違って針は通りにくそうだ。ユミルは耳にも空いていないのに、こんなとこに開けることになるとはと思って、既に開ける気でいる自分に苦笑いした。
「いいよ、お揃いのピアスしよ。」
「いいのか?」
「レイガンが言ったんでしょ。」
もにょ、とレイガンの口元がかすかに蠢く。だんだんわかってきたが、照れたり嬉しかったりすると、この年下の男は口元が緩む。可愛いのだ。
「ちょっとまて。」
「うわ、急にげんき…」
レイガンはいそいそとユミルから離れると、脱ぎ散らかした服の中からインベントリを発掘した。
服くらい着ればいいのになあと思うも、しばらくの間は会えないから見納めかと考えを改める。やがて目当ての物を見つけたのか、黒い長方形の箱を片手にレイガンが戻ってきた。
「開ける。」
「え、まって心の準備!」
「そんなに痛くない。が、気を散らすか?」
「ち、ちらし…っあ!?」
がくん、とユミルの体が枕からずり落ちた。次いできた刺激にぶわりと身を震わすと、思わずギョッとした顔で下半身を見る。
「っ、レイガン!ばか!うぁ、っ」
「ん。まあ痛みは紛れるだろう。」
ぐぷ、と尻に収まったのは、散々に教え込まれたレイガンの性器で、ユミルの蕾はしっかり広がりながらくわえ込んでいた。気は確かに散るだろう、しかし他にやり方だって合ったはずだ。
にゅぷ、と音を立ててレイガンが腰を押し付ける。かくんと持ち上がった腰が、レイガンが開けやすいようにへそを差し出すような形になってしまった。
「っあ、ま、まって…ん、んぅ…っ、」
カチャ、という音がした。レイガンがニードルを取り出した音だったようで、銀に輝く一本の鋭い針に、レイガンが何かを塗り込んでいた。
「なにそれ、っ…」
「痺れて、痛みが紛れる。まあ、治癒もするから気を楽にしろ。」
「ひぅ、あっ…」
きゅぅ、と内壁がレイガンを締め付ける。ひくんと身を震わしたユミルを宥めるかのように口付けると、その形の良いへそに針をあてがう。
「い、いちにっさんで、あ、あけて…」
「わかった。」
「ふ、ーーーーーーーっぁ、!!!」
生々しい金属がユミルのへそを擦る。こいつ、いちにいさんで開けろと言ったのに、いちで開けやがった。ユミルの体はブワリと熱を持ち、想像していたよりも痺れ薬が効いてくれたおかげで痛くはなかったが、衝撃が強すぎて思わずきつく締め付けてしまった。
レイガンの熱い性器が、じゅわりと熱をにじませた。ユミルの衝撃がレイガンにも伝わったようだった。
「っあ、あぃ、いっ…!」
「っは、んん…すま、ん…まって、いろ…」
「さ、した…?あ、あけ、た…?」
凄い衝撃だった。気づけばユミルもだらしなく精をとろとろと溢していた。
レイガンは箱の中から同じピアスを取り出すと、ニードルの空洞になっている部分にその先を差し込んでゆっくりと引き抜いた。
ぷつ、と皮膚が引っ張られるような感覚と共に、ニードルが引き抜かれる。へそ周りを赤らめたユミルが、恐る恐る見つめると、そこにはレイガンと同じピアスが差し込まれていた。
「うっ、」
「あ、ごめん…」
キュンとして、思わず締め付けた。顔を赤くしたレイガンが悔しそうに見上げてくる。どうやら今ので堪えていたものを出したらしい。
薄い腹に、お揃いのそれ。なんだかじくじくして、レイガンもこの熱を知っていると思うと、なんだか少しだけ嬉しい。
「へそ出して歩こうかな。」
「そんなことしてみろ。乳首にも開けるからな。」
「あ、や、それは大丈夫です…」
嗜めるようにがぶりと噛みつかれる。
「似合っている。」
「…うん、ふふ…あ、いてて。」
よく頑張りましたと褒めるように、べろりと頬を舐められる。なんだかレイガンは興奮すると獣っぽい。ユミルがクスクス笑いながら抱き返すと、こつんと額が重なった。
「俺が開けた。」
「レイガンって、独占欲強いよね。」
「……エルマーほどではないさ。」
「いや、かわんないでしょ。」
エルマーはナナシを孕ましたが、レイガンはユミルの腹に証を残せない。だからその代わりのピアスであった。
ぺたんと腹に触れる。少し腫れているが、これも時期に収まるだろう。
「やっぱり、今日は家で過ごす。デートは帰ってきてからだ。」
フンスとひとごこちついたレイガンが、不遜な態度で言う。
「んえ、出たべ、わがまま。」
「かわいいだろう」
「アッハハ!やば、今の面白いから、もっかいいって!」
「断る。」
ぎゅうぎゅうとユミルを抱きしめたまま、ガブリと首に噛みつく。そんなこと言っても言わなくても、ユミルにとってはレイガンはかわいい。
腹に収まったまま抜こうとしない性器は全くもって可愛いくはないが。
冬の空のような銀髪のレイガンの頭を抱えるように抱きしめながら、ユミルは嬉しくてちょっとだけ泣いた。
帰ってきたらデート。先のことをさり気なく約束してくれたレイガンの優しさが、ユミルにとってはこれ以上ない福音だった。
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