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level.4

 翌日、桐谷は直視するのも憚られるパッケージに入ったBlu-rayを峯から渡される。 「──ナニコレ、AV?」 「違うっ! 違うってわかっててわざと言ってんだろうけど……っ」 「お前俺がわかるようになってきたね〜」と桐谷は口の端を上げニヤニヤと笑う。 「これはねぇ、LOVE(sicks)の初の武道館ライブのBlu-ray! すごく感動するから桐谷にも一回見て欲しくて持ってきたんだ! ひょっとしたらハマるかもしれないと思って!」 ──もし本気でそう思っているならお前の勘は母親の子宮にでも置いてきたんだろうよ、と桐谷は冷ややかに思った。 「苦行か」 「なんで! 一生懸命頑張ってようやく立てた武道館なんだよっ、友情努力勝利だよ!」 「どこの週刊少年マンガだよ」 「ねぇ、だめ? 興味ない?」 「そんな仔犬みたいな目で見んな」  ペシリと頭を軽くぶたれて峯は「暴力反対」とべそをかいた。  桐谷はなんとも言えない心境でパッケージに映る6人を眺めた。柚莉愛のビジネス笑顔がここまで目障りだと思ったことがかつてあっただろうか──。 「──じゃあ、これ。お前ン家で見るってのはどう?」と桐谷は提案した。 「俺の家?」 「お前の部屋中の壁にびっしり貼られたゆりりんに囲まれながらこれを見て、お前が嬉々として横からライブ解説すんの」 「ほんっとーに意地悪いっ、桐谷」 「囲まれてることは否定しないあたりお前が恐ろしい」   もし本当にそうならそれこそ苦行だけどなと桐谷は内心頭を重くした。 「いいよ! そのかわり早送り一切禁止! ちゃんと最後まで見てよね」 「なんなんだよ、お前は。事務所の宣伝マンか」  ひゃははっと弾けたように峯は照れ笑いする。 ──嗚呼、本当にこいつは純粋に真っ直ぐに柚莉愛を好きなんだなと桐谷は思い知る。  案内された峯の部屋は想像していたものはと大きく違っていた。  結果として、壁のどこにも柚莉愛の姿はなかったのだ──。  それがあからさまに顔に出ていたのか、峯は桐谷の方を見ながら「悪かったな、フツーの部屋で」と唇を尖らせた。 「ダメだろ、壁中にゆりりんのポスターやらフィギュアやらを飾っとけよ」 ──部屋の全面にアイツがいるとか史上最強に気持ち悪いけどなと、本音は心の中に固くしまっておいた。 「うち妹いるからアイドル好きってだけでもう冷ややかな扱い受けてんのに、これ以上悪化させたら俺この家で生きていけないよ」 「妹いんの? 可愛い?」 「ねぇそれみんな聞くけど、妹いる男に対して行う通過儀礼かなんかなの?」 「まあ、最早社交辞令に近いかもな」 「兄貴が実の妹を可愛いなんて言う世界線、まずどこにもないから。ラノベじゃあるまいし、そして実際全然可愛くない!」  その言葉に桐谷は峯家のヒエラルキーを悟った。 「ふーん。顔はお前に似てる?」 「うーん、似てるの……かなぁ。親戚とかからは似てるってよく言われるけど……」 「じゃあ可愛いんじゃん」 「ハッ?! 真顔で何言ってんの??」と、思わず峯の顔が赤くなる。 「──確かに」  なぜか自然と口をついて出たその言葉に、桐谷自身が少し驚いていた。  峯が目の前でDVD(Blu-ray)をデッキに入れている間、四つん這いになってこちらに向けられた尻に何故かやたらと視線が行った。 「えい」と桐谷に蹴られて峯はバランスを崩し、テレビ画面にカエルのように張り付く。 「危ないだろっ、いきなり何すんだっ!」 「いや、なんか出っ張ってるから思わず」 「なんなの、何の衝動なの?!」  次に桐谷が何をしてくるのかが読めなくて、峯はビクビクしながら少し距離を取って桐谷の横に並んでに座った。 「ふふふ、警戒してる」  視界の隅で怯える峯にあえて目線を寄越さず、桐谷は怪しい声だけを送る。 「心の声を漏らすやめてください。怖いんで」 「あ!」と突然、桐谷が何かを思い出したように大声を上げたので、峯は尻と心臓が同時に浮いた気がした。 「今度はなにっ!」 「パソコンだ」ようやく桐谷はそこで峯に視点を合わせた。 「パソコンが──なに?」 「ゆりりんの写真はそこで見てるな、お前」  おかしな間が一瞬空いて、全ての言葉を失い、全身を真っ赤にして固まった峯がなによりもその答えだった。 「お兄ちゃんってばヤラシい〜っ! おかずはパソコンの中かぁ〜」 「おかずじゃないっ! ハイッ、この話はもう終わり! ライブ見るって約束したよねっ! 最後まで絶対早送りしないからねっ!!」 「チッ、罰ゲームの始まりか……」 「桐谷が言い出しっぺです!」  峯は桐谷のいう罰ゲームスタートの再生ボタンを押した。

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