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level.5

 画面の中で歌って踊る柚莉愛は桐谷の知らない完全なるだった。別人なんて言葉では済まないレベルの、ドッペルゲンガーなんだと言われた方がかえって素直に信じられるほど──だった。  会場を沸かし、センターとして周りを引っ張りながらも一人で悪目立ちすることわけでもなく、上手に空気を読みながらバランス良く立ち回っている。  そういう点ではやはり自分の知る、あの可愛げのないクレバーな柚莉愛と、この笑顔で歌うアイドルが同一人物なのだと納得せざるを得ない。  なのに──隣に座る男は何にときめいているのやら、何度見ても飽きないのであろうそのライブを今日初めて見るみたいに大きな瞳を揺らしながら見つめている。  そうやって柚莉愛は薄っぺらい画面の中からいとも容易く峯の心を支配する。そんな姿を目の当たりにすると、熱狂的ファンをと揶揄して世間が呼ぶのもわかる気がした。 ──魔が差した。  桐谷はそれ以外、その突発的で衝動的な行動につける言葉を見つけられなかった──。  桐谷は不意に峯の首筋に手の甲を当てて鎖骨へと滑らす。突然のことに驚いた峯が身体全体をビクリと大きく揺らし、画面から初めて視線を外して、柚莉愛を見ていたあの大きな瞳で桐谷を見た。 「な、なに?」 「何が──? お前は柚莉愛を見てろよ、早送りしないんだろ?」 「何言ってんの、これは桐谷に見せてるんだよっ? てかちゃんと見てる?」 「うん、見てる──」  桐谷が見ているのは明らかに目の前の峯だった。じっと見つめた白い肌が薄らと赤みを帯び、体温が上がるのが触れた場所から伝わる。 「桐谷、やめろって、くすぐったい……」  峯は抵抗と呼ぶには可愛すぎる程度の力で桐谷の手に指を絡めるが、桐谷から与えられる刺激の方が強いらしく、何度も往復する意味深な大きい手の動きに指を震わせる。  襲いくる羞恥に一度強く閉じた瞼を震わせながら薄ら開いて、峯は桐谷をチラリと見たが、桐谷のやけに真っ直ぐで強い視線に耐えられなかったのか、困ったように目線を泳がせ迷った結果、現実逃避なのか必死にテレビ画面に視線に戻そうとしていた。  桐谷は自分から柚莉愛を見ていろと言っておきながらそれが気に入らなかったらしく、峯の背後に座り直し、肩に顎を思い切り乗せて両手を峯の膝へ置く。 「桐谷、近いってばっ」 「近いとダメなの? お前そんなこと始めに言わなかったろ」  直接耳に桐谷の屁理屈の息が掛かって、峯は思わず肩をすくめた。 「やっ、桐谷っ……」 「やらしいな、耳感じんの?」  面白がって桐谷はわざと峯の耳元に語りかける。意地悪に動かした手のひらが峯の太腿の内側をなぞり、流れ動くその手に添って峯の肌も揺れる。 「やめ、なんで……こんな……」 「太腿も気持ちいい?」  一番敏感な場所に手が近づき掛けて、峯は怖くて思わず足を閉じてしまい、自分から桐谷の両手を太腿に挟んでしまう。余計肌に食い込んだ手の感触がさらに峯を襲った。 「ひゃあっ!」  峯は小さくパニックを起こして後ろに倒れ掛け、桐谷の胸に自らもたれかかる形になってしまった。  動揺した頭が横向きに転んだせいでピンク色の首元が桐谷の目の前に開かれ、桐谷は揶揄うように皮膚に噛み付いた。 「やっ!」  峯の漏らした声が思ったよりも艶っぽくて、衝迫に駆られ、桐谷はさらに強く肌へと吸いついた。ピンク色の首筋に赤く痕が残ったのを桐谷は満足そうに眺める。 「いたっ……」  苦しそうにうめく峯を無視して胸元へとどんどん赤い痕を散らしてゆく。  峯の中心が膨らんでいることに気付いて桐谷は口の端を釣り上げ、ボトムスのファスナーを寛げ下着の上から薄ら触れる程度にそれを撫でる。 「桐谷っ、まって、やだ、やっ……」  焦らすみたいな指先の動きに峯は抵抗すら出来なくてビクビクと腹を痙攣させ、次第に上がってゆく体温に比例するように顔も首筋も濃い赤色に染めてゆく。  辛そうに歪むその表情は、明らかに苦しみ以外の感情も潜んでいて、峯は桐谷の手を制止しているつもりの、ただそこに添えられたに過ぎない力無い手のひらに薄らと汗を滲ませた。 「早く脱がないとコレ……シミになるな」  嬉しそうに黒い誘惑が耳元でするのを峯は唇を噛んで堪えた。 「き、りや……やめて、お願い……やめ、て……」  もう今の峯には桐谷のことしか頭に入っていない。画面の中で歌い踊る大好きなアイドルの歌声すら最早耳に届いていない──それがたまらなく桐谷には快感だった。  峯のもう片方の手は桐谷の肩に伸ばされ、震える指先が必死にシャツを掴んでいる。 「可愛いな──お前」  焦らされていたのは桐谷のほうで、下着越しにあった手はすでに直接峯の雄に触れていて、先走りで濡れた指が何度も上下して峯を刺激する。 「やっ、やだっ! あ……っ、やっ……んーっ!」  湿った声を漏らす唇を桐谷が笑いながら塞いで、長い舌が峯の口の中を好き勝手に泳いでその声まで吸い尽くす。桐谷の手に痺れが伝わったかと思うと呆気なく峯は達してしまった。  唇を離すと、峯は涙で滲んだ瞳を瞑ったまま息を激しく乱して、力なく桐谷の腕の中にずるずると背中を埋めた。 「キスでイッちゃったの?」 「言う、なぁっ……」  涙で真っ赤に染まった顔を濡らした峯を見て、桐谷の好奇心は完全に獣の牙を剥き、耳障りなアイドルの音を物理的に遮断すると、桐谷はリモコンを足元へ投げた。  まだ肩で息をしている峯を床に押し倒して乱暴に両足から全てを剥ぎ取る。  怖くなって目を開いた峯が逃げれないように上から重なり何度も口付けると、峯は呆気なく力を失くした。  噛み付くようにして首筋をなぞるとそれだけで峯は何度も肩を揺らして、嘘みたいに甘い声を漏らす。  その声をもっと聞いていたいと素直に桐谷は感じた。別のことをしたら峯はどんなふうに鳴くのだろうかと桐谷はかつてない興奮を覚えた。 「痛っ……あっ、やだ、やっ……」 「乳首気持ちいんだ? ホントえっちな身体してんな、お前」  桐谷は笑いながら夢中で峯から全ての衣服を剥ぎ、好き放題舐めて回った。胸の尖りにふれると人一倍大きく反応を見せたのが楽しくて、桐谷は舌や歯で何度もそこを嬲っては峯が甘く鳴くのを味わった。  峯の雄が再び熱を持って固くなるのを桐谷は気付きながらもそこへは触れずに、他の場所ばかりを責めた立てた。  無意識のうちに峯の指がそこへ伸びるのを掴んで邪魔する。 「やだ……っ、もういたい……いたいっ……」  涙を溜めて必死に峯はかぶりを振るが、桐谷はそれでも敏感な場所への刺激を与えることを許可しない。 「──峯、俺に助けてほしい?」 「うん、うんっ。たすけてっ……助けてっ、桐谷っ……」 「──先に俺を助けてくれたらね」  辛そうな瞳をゆっくり開いた峯は桐谷が何を言っているのかわからなくて、震える唇を噛んでただ泣くだけだった。 「あっ!」  突然身体の後ろから異物が入ってきて、峯は目を見開くいた。 「痛っ……やだっ、やめてっ、桐谷っ」  身体の中を桐谷の指が這い回って、峯は最初はひたすらに怖がり痛がっていたが、中の膨らんだ場所を執拗に押されると次第に力を失くしていき、声色を変え始める。 「あ……っ、やあっ……変、そこだめ……っ、だめぇっあっ!」 「なんで、だめなの?」 「だって、こんなの……っ、変だ、から……っだめ……」  だめと言いながらも峯の雄からはどんどん蜜が溢れ出ていて、ピンク色をした腹は流れ出たものでいやらしく濡れていた。 「ダメなのに、そんなに漏らしてんの? 後ろももうさっき出したやつでぐちゃぐちゃだよ、お前の。俺の指2本も入ってるのに──中ぎゅうぎゅう吸いついて……ホントは気持ち良いんじゃないの?」  桐谷はわざと峯の耳元でそう煽り、舌で耳の縁をなぞった。 「峯、言って……。ホントのこと……」 「ほん、と……のこと?」  頭の回らない峯は大きく開かれた自身の両足の間に男が身体を入り込ませて来ていることも理解できずに、ぼんやりと宙を眺めていた。 「言ったらもっと峯、気持ち良くなれるよ──」 「……わかんない……だめ、これ以上したら俺……頭、おかしくなる、から……」 「峯のケチ」  桐谷は薄く笑うと峯の柔らかくなった場所に自身の雄をゆっくり沈めた。  痛みと驚きで峯は無意識に逃げようと腰を反らすが、すでに身体は桐谷に繋がれていて、閉じようとした太腿は桐谷の身体に当たって終わるだけだった。 「痛い……くる、しいっ、止まって……っ、桐谷っやだっ」  身体の中に強引に熱い塊が侵入してきて、圧迫感で気持ち悪いはずなのに、中にある他人の体温が峯にはたまらなく不思議で──熱くして、痺れて──痛い──のに、中で擦れると全身を別のもので支配される。今まで経験したことのない、──。峯は怖くなって必死に両手を桐谷に伸ばした。  桐谷は峯の腕の中で嬉しそうに揺れては、何度も口付ける。その度に繋がった場所がきゅっと戦慄いて、桐谷はくすぐったそうに笑う。 「やっぱ、可愛いよ。お前──」  そう言って笑う桐谷がなんだか色っぽくて、いやらしくて──誰も知らない秘密の姿みたいで、峯は心臓が強く震えた。  突然中を深く抉られ、峯は苦しさとはまた別の声を出す。 「あっ! だめっそこだめっ」 「ここが気持ちいいの?」と桐谷は楽しげに笑う。 「ちがっ、やあっやだっ、そこっ変っ、だめっ、もうしないでっ……」  完全にのぼせた赤色の顔を何度も振りながら、峯は初めて自分を襲う快感に怯えながらも、裏腹な自分の身体をコントロール出来ずに怖くて泣いていた。 「違わないだろ。お前のチンコもうぐちゃぐちゃに濡れてるくせに。気持ちいって認めろよ」 「いや、いや……っ、やだ、あっ!」  素直じゃない峯にお仕置きかわり、桐谷は峯が一番強く反応を示す場所を何度も何度も擦ってやる。  次第に拒絶の声を出さなくなった峯は、桐谷にそこを強く押されるたび、朦朧とした瞳のまま素直に恍惚の吐息を漏らし始める。  (りき)んでいた身体の力をゆっくりと抜いて、峯は桐谷のリズムに自然と身体を委ねる。素直な峯に気を良くした桐谷が優しく口付けると、峯はそれを受け入れたのか静かに瞳を閉じた。  峯の唇を舐めると、きごちなく薄く唇が開かれ、桐谷はすかさず滑り込んで震える舌を絡め取り、力が抜けて開かれた上顎をそのまま舌でなぞると、峯はびくりと身体を大きく揺らした。   「──お前のアソコすげぇ締まったな……。今の、気持ち良かった?」  意地悪な桐谷に腹が立つのに、その無邪気で優しい笑顔が峯の心臓のリズムを乱して早くする。 「きり、や……」 「なに?」 「なんで……そんなに笑ってるの……? 俺が……気持ち良い……と、嬉しい……の?」 「すげぇ嬉しいよ。お前が素直なの可愛いもん」  峯には理解不要だった──。こんな自分のどこに一体可愛いと呼べる場所があるのか。桐谷は苦手なアイドルのライブを無理矢理見せられて頭のネジでもおかしくしてしまったのかもしれないとまで峯は思った。  桐谷が何を考えているのか全くわからなくて、峯は下腹部を貫かれる強い刺激に殆どの意識を持っていかれながらも必死にその顔を眺めていた。 「そんなマジマジ見るなよ、照れる」 「うそ、つき……んっ」  両手を強く絡めとられて、峯はこのままでは心臓がいつか破裂してしまうのではないかと恐ろしかった。指先が勝手に震えて、それに気付いたのか、桐谷は手を離すと峯の身体を包むように抱き寄せた。  桐谷の肌からする良い香りに身体が包まれて、峯はゆっくりと息をついた──抽送が緩まって、安心したのか肩に頬を寄せる。 「俺の奥……まで、桐谷でいっぱいになってる……」  ほんの少しだけ峯の頭が落ち着いたのか、身体の中の熱をゆっくり確かめるようにポソリとそう囁く。 「殺し文句ヤメロ」  照れ隠しみたいにいきなり奥を深く突かれて峯は再び大きく鳴いた。 「だめっ、動かないで……も、動かないで……っ」  峯は救いを求めるように桐谷の身体に自らしがみついて肩に顔をうずめる。 「怖いの?」 「怖い……こんなこと、したことない、のに……俺……」  相変わらず止まらない涙が伝う頬を桐谷は何度も口付けては優しくその髪を掬い、ゆっくり繋がった場所を揺らした。 「あ……」 「、峯が好きなとこ。気持ち良い?」 「わかんない……あっ」  口とは裏腹に峯が感じる場所を小刻みに突いてやると素直に峯は吐息を漏らし、繋がった場所を畝らせた。 「桐谷……、どうしよう……俺……」 「何? まだ怖いの?」 「わかんない……怖い、のに……気持ち良くて、変……。中、擦られて、奥まで桐谷ので突かれて……頭、変になる──気持ち良い、怖い……こんなの変……」 「変で良いよ──俺はすごく嬉しいから。峯がすごく素直で可愛いからご褒美にもっと変にしてやるよ」 「あっ、だめっ、しなくて良いっ! しないでっ」  桐谷は笑って峯の両膝を抱えると、喚いて慌てる峯の中を何度も深く穿っては掻き回し、峯が感じる場所を強く擦っては激しく抽送を繰り返した。 「やあっ、あっああっ……あっだめぇ、だめっ、出る、出ちゃう……やっ、あっああ──ッ!!」  後ろからの激しく執拗な快感に、峯は自分の雄に触れることなくとうとう達してしまい、自身の腹に全てを吐き出した。 「本当に優秀な身体だな──お前、最高」  桐谷はほとんど意識のない峯に口付けては中から甘く伸びてくる舌を絡めとってやる。  無意識の中でも自分を抉り続ける雄を強く峯は締め付けては桐谷を喜ばせ、身体の中に熱い飛沫を感じて峯はビクビクと腰を痙攣させた。 「お腹……あつ、い……」と意識朦朧な峯は口から小さく溢すとそのまま眠りについてしまった。 「ぷっ……まだ抜いてねぇけど、いいのかよ、お前」  桐谷は満足そうに峯の身体を抱き寄せ、額に口づけ名残惜しそうに繋がった場所を離れると、その顔に寄り添って横になった。 ──こんなに気持ち良いと思ったのは初めてかもしれないと、桐谷は魔が差しただけのお遊びで終われないことを悟り、口元を緩めながら峯の睡魔に釣られてゆっくり意識を手放した。  目を覚ました峯は警戒した猫のようにすべての毛を逆立てて、真っ赤な顔の涙目のまま桐谷を睨んでいた。 「そんな可愛い顔して睨んでも無駄。気持ち良いって峯が言ったんだからな、その時点でお前も共犯」 「──わかってるよ! 桐谷のバカ!」  泣き出しそうな峯を抱き寄せると嫌がってジタバタと抵抗されたが、そんなものはただの見せかけにしか過ぎないことを桐谷は理解しながらも知らん顔をして、全部自分の責任にしてやった。 「もう柚莉愛にはやらねぇから」 「意味わかんない……なんでここで柚莉愛ちゃんが出てくるの?」  不思議そうに首を傾げている今の峯に、桐谷の口にした柚莉愛と峯の思う柚莉愛は完全なる別物だということを理解できるはずもなかった。 ──もし真実を知ったら、峯は俺を憎み、呪うだろうか……。  桐谷は何も口にすることなく峯を抱き締める腕をただ強くした。

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