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level.6
そうして、あっという間に二人の均衡は崩れた──。
柚莉愛をアイドルとして崇拝する男に少しだけ興味が沸き、小さな好奇心からそばへ寄り、それがどんなモノなのかを観察してみたかった──。
そこから歪んだ感情が芽生えたのは一体何がキッカケだったろうか──。
ほんのつい最近のことなのに、最早今の桐谷にはそれすら思い出せない。
それほどに目の前の峯に、自分でも不思議なほど簡単に心を奪われた──。
初めは冗談のつもりだったのかもしれない。遊ぶみたいに手を触れたら想像以上にそれは音がして、温度を変えて、姿すら変えた。
自分が放つ嫌味に、いつも子どもみたいに口を尖らせて拗ねて、笑って──だけれど一度 懐に包むと、そこからはかつて出したことのない湿った甘い声がして、中に入って奥まで揺らすと、さらに可愛く鳴いた。
それから桐谷は初めてセックスを覚えた獣みたいに峯の身体を何度も貪った。
初めての次の日は、警戒してしばらく口もきいてくれなかったのに、心から反省したそぶりでしおらしく何度も謝ると、峯の純粋な良心は簡単に桐谷を許した。
次こそちゃんとライブを真面目に見るからと口実を作って部屋に上がり、ドアを閉めた瞬間服を脱がせた。
嘘つき嘘つきと峯は泣いて怒ったけれど、謝りながら何度も口付ければ峯はあっという間に全身を溶かして、桐谷の雄を嘘みたいに奥深く飲み込んでは強く締め付けて、何度もあの甘い声を出しては鳴いた。
純粋な心とは裏腹に、淫靡なその身体は峯の腹の中で秘密裏に飼われた魔物みたいに桐谷をどこまでも惑わせた。
泣きながら感じる峯に「気持ち良い?」と、桐谷が耳元で問うと、峯は素直に頷きながら「うん……すき、すき……」と悪魔の言葉を簡単に口にする。
「峯は悪い子なんだな」と桐谷が笑うと、峯は熱に浮かされながら最早頭が回らないのか「桐谷の笑顔は可愛い……」と薄く笑ってお門違いな回答を寄越すので、その度誰かの理性を壊しては、更に自分を窮地にへと追い込んでいた。
「ああっ、だめぇっ、そんな強くしたらだめ……っ、桐谷っ、壊れるぅ、俺壊れちゃうからぁ……っ」
「壊れたら俺が治してあげるから大丈夫」
「嘘つき、うそつきっ……」
「──じゃあもうやめる? コレ抜く?」
「…………やだ、して……して。抜いちゃやだ……」
「可愛い──じゃあ、もう絶対抜かない……」
峯は自身の言葉を呪いながらも激しく優しく自分を貫く男に必死に抱きついて、教えられる快楽に素直に貪欲に、どこまでも溺れてはもっとしてと泣いて縋った。
そしてその度、終わってからひたすらに自己嫌悪の繰り返し──桐谷はその姿に笑いを堪えながら峯を優しく抱きしめては慰め、恥ずかし過ぎて逆ギレする峯に殴られるまでが毎回のお約束となっていった。
大学の食堂でミルクティーを啜る峯は目の前の男の熱視線に耐えかね、目を泳がせる。
「ねぇ、その黙ったままじっと俺を見つめる癖やめてくんない? 何考えてんののかわかんなくて、俺、どうしてていいのか困る」
テーブルに残された左手に桐谷は手を添えて、わざと指でいやらしくなぞった。
「──早くお前の中に入りたい」
「ブッ! もっ、そういうのマジでやめて! 心臓が持たないんだって!」
峯は口から溢れたミルクティーを必死にティッシュで拭いながら誰かに聞かれてはいないかと、不安そうにすごい速さであたりを見回した。
「ふぅん、純情ぶっちやってぇ〜」と嫌味っぽく桐谷は伏せ目がちに笑う。
「ぶってない! それに……俺のことはお前が汚したんだろっ」
「うん、そう」
「バカっ!」
潔くからりと笑う桐谷に、うっかり心が震えてしまうのを峯は秘密にしておいた。
「凛人 ……」
耳元で下の名前を囁かれて峯は熱っぽい瞳で桐谷を見つめ返した。
「なんでだろ……名前呼ばれるとか、普通のことなのに虎羽 に呼ばれると、心臓がドキドキする……」
「俺も好きだよ、お前に名前で呼ばれるの──」
「虎羽が好きなのはセックスだろっ、言ってるそばから胸ばっか弄って、嘘、つき……」
「うん、好き。お前とするの大好き」
甘いキスで騙されて峯は簡単に身体の力を失くした。
「凛も俺とするの好き? 気持ち良い?」
「うん……すき、きもちいい……」
スイッチの入った峯は最早無敵だ。簡単に可愛く鳴くし、素直に本音を語る。キスすら知らなかったくせに今では何度も舌を出してそれをせがむ。
「凛、舐めて?」
「うん……」
裸にされた峯は素直に桐谷の雄を口で咥えて、教えられた通り愛撫する。先を何度も舌でこじ開けて、深く奥まで咥え込んでは舌で舐め上げた。
最初は恥ずかしがって、なかなかしたがらなかったくせに、今では自分がした愛撫で桐谷がそこを固くして気持ちよさげに吐息を漏らすのを嬉しそうに見ている。
一緒に揺れている小さな尻すら桐谷には可愛くて、途中で我慢できずにすぐに峯の身体に喰らいつく。
峯はどこを触ってもすぐに甘く鳴いては桐谷をいつも狂わした。
最近は堪え性のなさがどんどんひどくなってきていて「はやく、ねぇ、虎羽……はやく挿れて……」と自ら強請る始末だ──。
「凛が好きなのはセックスだな」と仕返すように桐谷は笑う。
「いじわる……」
頬を膨らませて拗ねる峯に桐谷は微笑みながら口付ける。
ゆっくり峯の中に入ると、峯は幸せそうに吐息を零す。
「あっ……、おっきぃ……。虎羽の……中……入ってくる……」
キスしながら奥深くまで繋がると、一際峯はそこを強く締め付けた。
「痛くない? 大丈夫?」
「うん……へぃき……、気持ちい……。中、擦って……あそこ、虎羽のでもっと擦って……」
峯は自ら腰を揺らして、桐谷を誘う。いつからこんな乱れた男になってしまったのだろうかと桐谷は少し胸が痛い。
望み通りに峯の好きな場所を擦ってやると嬉しそうに声を漏らした。
「あっ……あん……ん、そこすき……っ、あ……っ、やだ、もっと動いて……っ虎羽、ねぇ……」
「淫乱」
「ぜんぶ虎羽のせいだよ……」
「そう、俺のせい──」桐谷は満足げに微笑んで峯の願いを全て叶えてやる。
何度も何度も峯が好きな場所を抉っては奥まで貫く。ギリギリまで抜くと峯は不安そうにそこを締め付ける。狭くなった場所を再び穿つと峯は大きく喘いで呆気なく果ててしまった。
「あっ……も、やだぁ、俺もう、イッちゃった……また、虎羽のこと、待てなかった……」
「いいよ、待たなくて。何かのルールなの? それ」
いつもべそをかいて峯はそれを反省するのが桐谷は不思議だったが、それすら無性に可愛くて仕方ない──。
「じゃあ凛が俺をイかせて、俺の上で動いて」
峯は桐谷に起こされ、素直に自ら膝の上に座ると、ゆっくりと逞しい雄を自分の中へと沈めてゆく。
「あんっ……、おっきぃ……無理、これ以上入んない……」
「全部入るよ、本当は知ってるくせに」
「だって、怖い……奥まで当たっちゃったら……俺またすぐイッちゃうもん……」
「そしたらまた挿れてあけるから。ホラおいで」
「そうじゃなくって、ヒャアッ!」
腰を掴まれて峯はピッタリと膝に座らされ、目と口を瞑って必死に達しそうになるのを堪えていた。
「凛、動いてよ」
「ま、待って……ゆっくり、する、から……」
峯は桐谷の肩に両手を乗せて、ゆっくりと腰を動かし始める。やわやわとじわじわと、優しくされる抽送に桐谷は勝手に笑みが漏れる。
「もおっ、笑わないでよっ」
「お前が可愛いから仕方ない、お前のせい」
ペシリと尻を叩かれ峯は小さく悲鳴を上げる。
「だめ、も、出来ない……ねぇ、虎羽助けて……」
震える指で桐谷の肩に縋り、峯は桐谷の頭を自分胸の中へ包むと、細い声で甘えてみせた。
「そんなこと言って、本当は俺にいっぱい下から突いて欲しいんだろ?」
ニヤニヤと桐谷は赤く腫れた峯の胸の尖りを摘んで涙目の甘え上手を下から眺める。
「だめ、なの……?」
「お前は本当、いつも百点満点で参ります」
大学では一切見せない妖艶な視線遣いの峯に白旗を上げ、優しく唇を啄むと峯は嬉しそうに笑った。
再びシーツに背中を沈められて峯は桐谷に嬉しそうに抱きついた。
望み通りに焦らしに焦らされ膨れた雄で奥深く貫くと峯は幸せそうに鳴いて、桐谷の背中に這わせた指に力を入れた。
「ああっすごい……っ、お腹いっぱい……になるっ、虎羽の俺の中ですごいビクビク言ってる……熱い……。──虎羽は? 中……気持ちい?」
「うん、気持ちい……もう死にそう」
「ばか……」
ごちんとおでこを合わせて二人は笑って深く口付け合うと、比例するみたいに身体の奥も同じに深く深く繋ぎ合わせた。
純真な峯が付き合ってもいない桐谷とこんなことを繰り返すのはきっとそれは桐谷とするのが初めてのセックスでだったから──それだけだと桐谷は冷静に理解していた。
男は基本的に誰だってそうだ──知らなかった性的快感に馬鹿みたいに感動して興奮して、男特有の排出欲が癖になって何度もしたくなる。
何にも知らない峯だからこそ同性でするセックスに内心では困惑しながらも、それ以上に自分を襲う快感に負けて、普通の女とじゃ味わえない場所の強い快楽にも夢中になって──
──お前にいつか好きな女が現れて、その女とセックスする日が来たら……きっと俺とのことなんてすっかり忘れてその女との行為に夢中になるんだろうな──。
桐谷は隣で規則正しい寝息を繰り返す峯の寝顔を眺めながら、桐谷らしからぬくだらない妄想にひとり耽けた──。
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