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第8話
大事なジュン。寂しさを埋めてくれるジュン。朝を与えてくれるジュン。
夢だった。目が覚めるとイドリーの許可をもらったらしい下っ端たちが代わる代わるミネットを犯していた。
「あ、ああっ！」
爪で壁紙につけていた印もつけなくなっていた。今がいつなのか、時間すらもわからない。
ただ快楽を与え、無理矢理快楽を与えられるその体は身も心もボロボロだった。
さんざん輪姦された体をタオルで拭われていると「派手にやられたなあ」とイドリーが笑いながらやってきた。
イドリーがアルミ箔に包まれたサンドイッチを投げてよこす。食欲はないけれどジュンが食の大切さをいつも話していた。それにジュンの無事さえ確認出来たらここから逃げなくてはいけない。食べたくはないが仕方がなくそれを食べる。
脂っこいサンドイッチを咀嚼していると部屋のドアが音を立てた。
「おやおや、慈善家の先生じゃないか」
「やあ」
懐かしい声にミネットが視線を上げると部屋の入口にトラップが立っていた。
「トラップ先生……！」
ゆっくりとこちらに近づくトラップが神様のように見えた。これで助かる。そう思ったミネットはトラップに助けを求めるため口を開く。
「先生、助け……ッ！」
助けて。と最後まで口に出すことはできなかった。燃えるような痛みがミネットの体に走ったからだ。自分の身に発生した衝撃を理解するまでに時間を要した。トラップに頬を殴られたのだ。
「おいおい先生、ダメじゃないか。美人の顔を殴っちゃ」
「ふふ、美しいものが崩れるところこそ美しい。イドリーさんはそう思いませんか？」
「相変わらずのサディストだなあ、先生は」
ゲラゲラと下品な笑いを漏らすふたりをミネットは呆然と眺めていた。口の中が切れて血の味がする。床にはさっきまでミネットが持っていたサンドイッチが落ちていた。
「トラップ先生、なんで、こんなやつと……」
知り合いなのか。笑い合っているのか。どう聞けばいいのか分からず言い澱む。
「あれ、知りませんでしたか？ 私はイドリーさんの主治医みたいなものですよ」
「でも、先生はいつも、俺たちの味方で……」
「慈善活動って大変なんですよねぇ。それなりにストレスも溜まるし。ま、しばらくはイドリーさんの計らいで気晴らしをさせていただくんですけどね」
そう言いながらトラップは殴られて腫れたミネットの頬を抓った。
「じゃあミネット、しばらく慈善家の先生に可愛がってもらうんだな。先生、あんまり顔面は痛めつけないでくれよ？ 俺はミネットの顔が好きなんだ」
「ああ、返却する頃には治る程度にしておきますよ」
そんなふたりのやりとりにぞわぞわと寒気がする。
ここは狂人ばかりだ。ここから早く逃げ出さなくてはいけない。ミネットは冷や汗を流しながらもジュンのことを考えていた。
ジュン。かわいい弟のジュン。ジュンの細くて長い黒い髪。独特の甘いにおいを必死で思い出す。
ジュンの安全さえ確認できたら自由になれる。逃げ出すなんて簡単だ。今までだって、こういう目に合った時は逃げてきた。でもその前にジュンが今どうしているのかを聞きださなければならない。
「ま、待って」
「なんだい？」
このまま抱かれたらどんな目に合うかもわからない。ジュンの安否を確認する暇などもちろんないだろう。トラップの口づけに待ったをかけると体に染みついた相手に媚びる演技をはじめる。
「ねえトラップ先生、ジュンは、どうなった？ 元気にしてる？ 寂しがってない？」
少しでも素直に、少しでも従順にしていれば、相手はみんな機嫌がよくなる。処世術だ。
また殴られるかと思ったが、トラップはにこりと笑って言った。
「……さあ？」
もうとっくに売り飛ばされてるよ。と、トラップは穏やかな表情のままミネットに残酷な事実を伝える。
「な、んで？ だって、イドリーさん、入院費、出してくれるって……」
耳障りなほどバクバクと心臓の音が聞こえて視界がぐにゃりと歪む。
「入院費は出したさ。やるとは言ってないんだ。出したものは返してもらわないといけない。そうだろう？」
かかった金は返してもらわんとなあ。そう言ってイドリーは笑って出ていった。
「それにもう五年になるんですよ」
「五年？」
そんなに年月が経っているとは思わなかったミネットの顔がざっと青くなる。
「ふふ……五年なんてあっという間ですよね。ああ、ちゃんとミネットも大人になりましたね。ちょうどいい。今までの薬代、体で払ってもらいましょうか」
バチンと先ほどよりは軽いがまた頬を殴られた。殴られた痛みでふと、売られていても、もしかするとまだ無事でいてくれるかもしれない。そう冷静になり深く呼吸をしてトラップを睨みつける。その顔が愉快なのか、トラップは大声で笑いはじめた。
「なんだよ」
「ふふ、ジュンが買われた先をこっそり教えてあげましょうか？」
ニヤニヤと意地の悪い顔でトラップが笑いながら言う。
「教えろ……」
「タダでは教えませんよ。そうですねえ、しゃぶってもらいましょうか。……どうします？」
ミネットはトラップのスラックスの前を寛がせると、十分に勃起しているそれを取り出し自身の口でしゃぶった。あまり好きな行為ではないが、ジュンの行方を教えてもらうためにはやるしかない。長いそれをソフトクリームを舐めるように丁寧に舌で刺激する。
そんなミネットに焦れたのかトラップはミネットの後頭部を鷲掴むと、ミネットの喉奥めがけ怒張をねじ込んだ。
「う、ごぁ……ッ」
「そんななまぬるいの、しゃぶるとは言いませんよ。ほら、しっかり、喉を絞めて、ちゃあんと、根元まで、しゃぶるんですよ」
喉奥までトラップの怒張を押し込まれて呼吸ができない。口の端からは唾液が溢れ、鼻水が垂れる。苦しさに泣きたくないのに涙まで出てくる始末だ。
「お、があ……お、おェあ……」
「イイですよ……そう、ん、出しますよ……っ」
喉奥にびゅるりと液体が流れ込んできた。吐き気がする。口から引き抜かれる瞬間ひどくえずいたが、トラップから吐いたら教えてやらないと脅され懸命に胃から逆流するものを吐き出すのを我慢した。胃液独特の酸っぱい味と精液の生臭い。それらが口の中で混ざり合ったがなんとか吐き出さずに飲み下した。
その様子に満足したらしいトラップは手を叩いて喜んでいる。
「お、教えろ……！ ジュンは、誰に買われた？」
無理なイラマチオと胃液で喋ると喉が焼けるように沁みたがミネットは構わず叫んだ。
「そんなに叫ぶんじゃないよ。喉を傷めますよ？」
誰のせいだとミネットは叫ぼうとしたが、その体を思いきり押し倒されたことでその言葉を飲み込んだ。
「まあ、そう焦らないで。ミネットも気持ちよくしてあげますよ」
にんまりと笑いながらトラップはローションを使いミネットのそこを丁寧に解していく。しかも指で何度も探りを入れるようにナカを擦り上げる。しばらくそれを繰り返すうちにミネットの気持ちのいい部分を探り当て、しつこくそこばかりを刺激した。
「や、めろよ！」
「おや、痛い方が好きなんですか？ ああ、それともここの方がお好きでしたか？」
トラップはそう言うとミネットの胸にぷっくりと主張する先端を急に摘まみ上げた。
「ひあ……ッ！」
ガクガクと自分の意思とは関係なく体が震える。射精を伴わず絶頂を迎えたミネットは喉を引き攣らせながら喘ぐ。
「これは、なかなか調教されましたね」
鼻で笑いながらトラップは痙攣するミネットの脚を肩に抱え、丁寧に解したそこに一度果ててなお硬さを保っているそれを押し当てると、ずぶずぶと根元まで納めてしまう。
途端に開始されたトラップのピストンは亀頭をミネットのいいところに叩きつけるようなものだった。
「あ、ひ……い、ぐ、やだ……イクッ！」
何度ミネットが果てようがトラップの腰は止まらない。ミネットはトラップの胸を押して抵抗を試みるが、何度も絶頂を迎えている体では力が入らない。
「ああそうだ。そろそろ教えてあげましょうか」
「あ……ああっ」
「ジュンの買われた先ですよ？ もう聞かなくていいのですか？」
ジュン。そう言われてミネットの目に光が戻る。
「せ、んせ……ひァア、教えて、アッ、ジュン、ジュンは？」
ミネットはすがるようにトラップに尋ねた。トラップはそんなミネットの汗ばんだ頭を撫でると耳元に顔を寄せる。
「あのゴルドーですよ。ミネット、きみも知ってるでしょう？」
ゴルドー。ミネット自身も以前危ない目にあったことがある、買い取った少年を剥製にするという噂のある悪趣味な男だ。そんな男に買われたのなら、もう生きていないかもしれない。
『最悪だ』
自分のしてきたことは全部無駄だったらしい。
ミネットは目を瞑りただひたすら体が揺さぶられる感覚に耐えた。
「あれ、サービスが悪いなあ。人気の娼夫じゃなかったんですか？ ねえ？」
何度も顔を殴られ、鼻から血が垂れてきた。トラップは笑いながらその鼻血を舐めつける。
されるがままミネットは目を閉じた。
もうどうでもいい。
ジュンがいなければ朝はこないのだから。
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