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35.探偵と刑事と思慕・一△
ソファに体を沈めて、ウィルクスはベルジュラックのキスに身を任せていた。
ベルジュラックの舌はねっとりと絡みついてくる。軽くウィルクスの舌先を吸い、涎れを垂らして雌犬のように舐めてくる彼の舌を優しく受け入れ、唇を軽く噛む。
ベルジュラックはキスが巧い。ハイドよりも。彼が的確にウィルクスのしてほしいことを見いだし、忠実に応える、そのために巧いのだとしたら、ベルジュラックは純粋にテクニックに優れていた。それがウィルクスを煽る。
キスを繰り返し、口の中ですでに深く交わっていた。ウィルクスは自分の口が、受け入れる孔になったかのように錯覚する。尖った舌が侵入してくると、体の芯が悦びに震えた。触られていないペニスがはちきれそうなほど昂ぶっていく。
ベルジュラックはウィルクスの顎をつかみ、彼が逃れないようにした。しかしこのときのウィルクスは性の悦びに没頭していて、逃げようとは思わなかった。ただ与えられるままに受け入れ、キスを繰り返す。キスは激しくなり、互いの喉の奥を舐めそうなほど、深く交わった。ベルジュラックの唾液は濃く、ウィルクスは舌を絡めて唾液を味わう。
快感と、柔らかくも芯があり、熱くぬめる舌に犯される興奮とその感触で、ウィルクスの顎は痺れてきた。口の中が顎の骨ごと溶けて、崩壊していきそうな感覚に襲われる。歯と顎がむずむずして、耐えられないのに、キスをやめられない。どのみち、ベルジュラックはまだやめる気はないようだ。
キスを繰り返しながら、彼はウィルクスの病的に染まった頬骨を撫でた。ウィルクスの背が跳ねる。強烈に、今ここにいないハイドのことを思いだす。あの人は、いつもおれの頬骨を指の背で撫でてくれる。あやすように、優しく。はじまったとき、行為の最中、終わったとき、ベッドに行かないときも、おれがそんな気分じゃないときも、激しく飢えているときも。
キスの仕方はまったく違うのに、その撫でかたは同じだった。ウィルクスの胸が強烈な寂しさと罪悪感で塞がる。思慕が高まって、息継ぎで唇を離したとき、くちゅっという舌が擦れる音の次に、声が出ていた。
「シド」
つぶやいて、身をよじる。ベルジュラックは顎に垂れた唾液をぬぐって無言だったが、また黙ってウィルクスの唇に口づけた。
「ん……う……」
ウィルクスはすすり泣きながら目を閉じて、キスを堪能する。キスをしているあいだは、そのやりかたがあまりにも違うために、ハイドのことを思いださない。ただ快楽に翻弄され、欲情の海に沈むだけだ。
ベルジュラックはウィルクスの上半身を脱がせ終えていた。と言っても、タイを外し、ワイシャツを脱がせただけ。アンダーシャツは相変わらずウィルクスの身を覆っているが、それも裾がぐちゃぐちゃになって、胸の上までたくしあげられている。
ウィルクスをソファに横たえて、ベルジュラックは唇を離した。すがりついてくるウィルクスをあやし、彼の胸の突起を指先で軽く押す。ウィルクスの体がぴくっと跳ねた。乳首は硬く勃起していて、指で押さえた感触はふにっというよりはこりこりしている。
ベルジュラックは瞬時に読みとった。ウィルクスが十分この場所を開発されてきたこと。彼もそこが好きだということ。じっくり愛せば、すぐに落ちる。
ベルジュラックのほっそりした指先が、縮こまっている乳輪をなぞる。ウィルクスはぴくぴく跳ねた。ふたたびキスをすると体からは力が抜けて、ぐったりする。あえて性器には触らなかった。尖った乳首を親指で根元から撫であげ、頭がぷっくり膨らんだところを、人差し指でつまむ。羽根のように軽く触れたのは、ウィルクスがもどかしがってくれたらと思ったからだ。
ベルジュラックの思惑はその通りになった。唇を離すと、ウィルクスは痩せた胸の上でアンダーシャツの裾を握り、腰を浮かせてもどかしげにくねらせた。朦朧とした、虚ろな目でベルジュラックを見上げる。その目の卑猥さにベルジュラックは息を飲んだ。ふと、自分の下になっているこの男と共に生きていきたくなる。日々の生活から帰って、家の地下室に彼がいたら、どんなに心和むだろう。常に発情していれば都合がいいが、そうでなくてもかまわない。
あきらかに、ウィルクスは欲情していた。熱でどろりとした目でベルジュラックを見上げて、乳首を弄られると背をのけぞらせ、下半身をもぞもぞさせる。ベルジュラックはちらりとウィルクスの下半身に目をやり、口端に笑みを浮かべた。初めて見たときも可愛い分身だと思った。素直で、淫乱で、敏感で。決して小さいわけではなく、むしろ立派だ。それが腹を見せる犬のように、裏側を剥きだしにして触られるのを待っている。
「ん、んんっ……」
勃起した乳首を潰すように捏ねまわされ、ウィルクスは熱く湿った息を漏らす。ベルジュラックは顔を寄せ、左の乳首を舌先で舐めた。ウィルクスはびくびくと跳ねる。汗の味がする。ベルジュラックは軽く吸って、舌先を尖らせて勃起した頭を転がした。
「んん……っ、シ、シド……っ」
胸を波打たせ、ウィルクスがすがるようにうめく。ベルジュラックは舌の動きを止め、顔を上げてウィルクスを覗きこんだ。
「……ウィルクスさん。ハイドさんは、来ませんよ」
「や……、シド……っ」
両手で顔を覆ってすすり泣くウィルクスに、ベルジュラックの顔が仮面のようになる。優しい笑みを唇に浮かべ、ウィルクスの首筋をきつく噛んだ。
「うあ、いた……っ!」
のけぞるウィルクスの手を握って、噛み痕に舌を這わせると彼の喉から震える息が漏れる。
「ねえ、ウィルクスさん」ベルジュラックは耳に口を押しつけてささやいた。
「ぼくより、ハイドさんがいいんですか?」
「シドがいい……っ」ウィルクスは嗚咽を漏らした。そのあいだも、ベルジュラックの熱い手は彼の胸を這っている。乳首を弄られながら、ウィルクスはすすり泣いた。
「シ、シド……っ」
「セックスするなら誰だっていっしょでしょう? なにが違うんですか? ぼくとあの人と」
ベルジュラックの指がウィルクスの性器の裏側に触れた。
「あ……!」
ウィルクスは声を漏らして腰を緊張させる。ベルジュラックは人差し指の腹を昂ぶった性器の裏側に当て、先端から根元までゆっくりとすべらせる。ウィルクスはびくびく跳ねた。頭からはだらだら先走りが漏れている。ベルジュラックは、触らなければよかったと思った。心が焦ってしまった。そんな自分を冷静に観察しつつ、ベルジュラックは性器から指を離した。ウィルクスが飢えた目で見上げてくる。
「ほら」ベルジュラックは笑みを浮かべてささやいた。
「触られたいんでしょう? ぼくに。誰でもいいんでしょう」
ウィルクスがすがる目になる。そんなことは言わないでほしいと言っている。ベルジュラックはそれを無視した。どろどろに溶けた目の中を覗きこんで、「ペニスをくれるなら誰でもいいんですよね」とささやいた。ウィルクスの顔が歪み、その目は壊れそうなほど怯えている。ベルジュラックの中の嗜虐的な部分が疼いた。
「あなたは男を煽るすべを心得てる」
そうささやき、ウィルクスの足首をつかんで、ぐるりとひっくり返すように脚を持ち上げ、後ろの蕾を目の前に晒した。
「うあ、やめて……っ」
ウィルクスが悲鳴を上げて抗おうとするが、ベルジュラックに口をキスで塞がれて動かなくなった。キスをすると、ウィルクスはおもしろいようにどろどろになる。体から力が抜け、ぐったりとソファに横たわった。しかし、ベルジュラックから脚を開いて持ち上げられ、蕾にキスされたときは、さすがに身をよじった。張り裂けそうなほどの期待と、恐怖に貫かれる。それでも肉体は貪欲だ。ウィルクスはしたかった。奥まで貫いてほしかった。しかし、ハイドの顔がちらつく。優しい微笑みと光の集積のような青い瞳。思いだすと、涙が出てくる。
「シド……っ」
ベルジュラックは無言でウィルクスの後孔を舐めた。「ひ」と泣いて、彼の爪先は反る。ごめんなさいと口走った。ベルジュラックは脚のあいだから、感心してウィルクスの顔を見た。ふだんはあんなに凛々しい強面の美貌なのに、今はなんてだらしない顔をしているんだろう。溶けた飴みたいだ。唾液をだらだら垂らして、子どもみたいに、でも崩れた表情は淫らで卑猥だ……。
「次にシドって言ったら」ベルジュラックはウィルクスの胸に膝がつくほど脚を押しあげながら、ささやいた。
「もう、しませんよ」
その瞬間、ウィルクスの表情が壊れた。がくがくと首を振ってうなずき、両手で口を押さえる。ベルジュラックは満足げに見ていた。食事の終わったトレイが載ったテーブルの引出しを開け、コンドームと携帯用の小さいローションを取りだす。ゴムを利き手の人差し指と中指に嵌め、ローションを垂らした。
ウィルクスの脚はまただらりとソファの上に垂れていた。脚を開いているので、性器がだらしなく剥きだしになっている。色づいた部分が卑猥に濡れそぼっていた。ベルジュラックはちらりと見て、ふたたび脚を持ち上げさせた。
「抱えててください」
そう言い聞かせ、ウィルクスに自分の両膝を抱えさせる。蕾は剥きだしになっていた。かすかに盛りあがって、毛もなく、色づいてきれいだ。ベルジュラックは今は固く閉ざされたそこを、丁寧にマッサージしはじめた。
両手を口に当てて押し殺した息をしながら、ウィルクスは怖くなっていた。ラルフの手で射精したこともあり、ペニスを触られることはもうそれほど怖くなかった。それでも、中は……。しかし、してほしいという思いもまた抑えきれなかった。
肉体は熟れていた。奥まで貫いて、激しく掘ってほしかった。例えそれが夫のペニスではなかったとしても。
ウィルクスは自らの手を噛み、口の中で何度もシドと呼んだ。しかしそれは声にはならなかった。
ベルジュラックの指がゆっくり中に入ってくる。
「あ……!」
手前を擦られて、ウィルクスは思わず指を締めつけていた。
「ウィルクスさんは、中にポイントがたくさんありそうですね」
ささやきながらベルジュラックは入れた指先で容赦なく肉襞を擦った。懐かしい快楽が痺れるように腹の奥から込みあげて、ウィルクスの体から力が抜ける。指は浅い場所を執拗に擦った。快楽の熱い斑点ができて、ウィルクスはもどかしさに身をよじる。
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