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探偵と刑事と思慕・二△
「んっ、んっ……、シ……!」
そこで口を押さえ、夫の名前を飲みこんだ。おれ、最低だ。ウィルクスが自分を責めたのは、そこが最後だった。指は探るように、ウィルクスの尻の手前を擦っている。吸いつくようによく動き、ベルジュラックの指にまとわりついてくる。必死にキスしてるみたいだ。可愛い。ベルジュラックの心も少し穏やかになる。欲情は燃えた。わざと浅い部分を擦ると、ウィルクスは「もっと」と言った。
「もっと、なに?」
ささやくと、ウィルクスは胸を上下させ、ぼろぼろ泣きながらベルジュラックを見ている。指を曲げ、ぐっとえぐる。
「ひ……っ」
ウィルクスはびくびく跳ねて、指を締めつけた。わりとすんなり入るわりに、中はまだきつい。ベルジュラックは満足する。かなり好みだ。ハイドはよく、この状態を維持させていると思う。もしかして計算しているのだろうか、あの男は。
「もっと、なんですか?」
ささやいて、ふたたび浅く擦ると、ウィルクスは震えながら「おく」と言った。
「お、奥、もっと……っ」
「ここ?」
指をぬぷぬぷと潜り込ませる。弾力のある肉筒は受け入れるように動き、指に沿った。しっかり教え込まれている。指を硬い場所に押しつけ、ごりごりと力強くポイントを擦ると、ウィルクスはびくびく跳ねて海老のように痙攣した。半ば萎えた性器からとろとろと涎れが垂れ、まるで失禁しているようだ。
強く押さえて擦ると、ウィルクスの目が上を向く。
「っあ……いく……ぅ……」
「もう? 早いですね。ぶち込まないうちに、イってもいいの?」
ウィルクスは口を両手で押さえ、がくがく震えながら首を横に振った。がまんします、と口走る。
「そう、いい子だ」
ベルジュラックは微笑んだ。そろそろ入れてあげようか。じっくり可愛がってあげよう。指を抜きかけたそのとき、ウィルクスは胸を波打たせてすがるように言った。
「シ、シド、シド……っ!」
ベルジュラックは指を引き抜き、ウィルクスはの両脚のあいだに腰を割り入れた。パンツの前を開き、手早く下着を下ろして男根を取りだす。すでに勃起していたが、二度ほど扱いてさらに硬くした。残酷な武器にまで昂ぶったその道具を握り、ローションを絡めると、ぐっと中に突き入れる。
「うあ、いや、ちんこは、い、いやだ……っ!」
ウィルクスは悲鳴をあげて逃れようとするが、一度ピストンされて体から力が抜けた。ベルジュラックは無言で、ゆっくりピストンを深くする。硬く拳のようになった頭がぐっと深くをえぐり、長い竿が肉筒の空白をみっちりと埋めていく。
ベルジュラックの一物は、太さではハイドに劣るが、長さはほぼ同じくらいだった。勃起する力も同じくらいあり、ウィルクスの中を隙間なく埋めた。初めは甘いキスをするようなピストンをしようと思っていたが、ウィルクスの反応を見て、荒々しく、深く掘ることに決めた。腰をぶつけ、勢いよく引くと、「ああっ」とウィルクスが嬌声をあげる。彼の中は熱く、肉棒に狂っていた。
ベルジュラックに奥深くまでえぐられ、壁を擦られて、肉筒はとろとろに蕩けた。ウィルクスはそれがもう、自分の体の一部ではないように感じる。肉棒に吸いついて、狂ったようにまとわりついていた。ウィルクスも狂っていた。
「お、奥、は、ハメて、ばこばこして……っ」
ベルジュラックの腰に脚を絡め、ウィルクスは必死でねだる。ベルジュラックが応えて突きあげを深くし、奥を荒々しく突き刺して掘ると、上体を反らせて発情した獣のように鳴いた。
「ねえ、ウィルクスさん……っ」
荒い息をつき、腰を前後させながらベルジュラックがささやく。
「ぼくの、名前、呼んで」
ウィルクスは感じ過ぎているために、朦朧とした目をしていた。激しく突かれるたび、口から舌がはみ出る。性器は二人のあいだあでぴょこぴょこと跳ねていた。
ベルジュラックはキスでウィルクスの唇を塞いだ。そうしながらも、的確に相手の限界を読み、射精しない程度の突きあげに留めておく。キスをされて、ウィルクスの肉体だけでなく、頭もベルジュラック一色に染まった。じゅるじゅると卑猥な音をさせながら舌を吸う。唇を離したとき唾液が糸を引き、ウィルクスの胸に落ちた。
ピストンを繰り返しながら、ベルジュラックはささやいた。
「ウィルクスさん、ジャンって、呼んで。ちんこ、奥まで入れられたいんでしょう?」
そう言って亀頭を軽く奥に食い込ませると、ウィルクスはびくんと跳ねて「ジャン」と口走った。
「ジャ……ジャンっ」
ウィルクスが名前を呼ぶたび、突きあげは濃く深く、激しくなる。ウィルクスは癖になった。ジャン、ジャン、と名前を呼ぶと、男根はずるりと奥に入ってくる。硬く肥った亀頭で最奥を突き刺され、カリが襞を削る。痛いほど激しく、濃厚で、涙が出るほど気持ちよかった。
中を荒らされ、蹂躙されて、ウィルクスは海老のように痙攣しながら名前を呼び続けた。
「いい子だ、ウィルクスさん」
ベルジュラックはささやいて、腰を動かす。ねっとりと絡みついてくる肉筒を手なずけることはたやすかった。飢えていて、淫乱で、従順。名器だ。よくここまで調教したものだとベルジュラックは感心する。たしか、ミスター・ハイドは根がヘテロだった。勘がいいんだな。あるいは、遊び人だった父親の血か。
でも、勘だけじゃどうにもならないこともある。
深く奥を穿ち、頭で擦ると、ウィルクスはびくんと跳ねた。内腿が痙攣をはじめる。
「あー……あ、あっ」
彼はだらしない顔でのけぞり、喘ぎを垂れ流していた。
「ここ、気持ちいいでしょう?」
あやすようにささやくと、ウィルクスはがくがく首を振ってうなずいた。性器を触らずとも絶頂を極めているとは、相当感度がいいし素質がある。これからが愉しみだとベルジュラックは思う。
細かく痙攣し、自分の下で快楽に狂うウィルクスを見て、彼は満足した。この人は、ミスター・ハイド以外の男を知らない。その中にいま自分がいると思うと、無性に興奮する。
突然さらに大きくなったベルジュラックに、ウィルクスは目を白黒させてすがりつく。
「ジャ、ジャン……っ」
「いますよ」
ベルジュラックはそうささやいて、さらに打ちつけた。ウィルクスはソファに沈む。かわいそうに。心ではハイドただ一人を愛しているのに。
そう思うと、憐れみと共にどす黒い炎が胸に逆巻く。下腹部に力を入れ、奥に届いた瞬間に、竿を亀の首のように上下させた。
「ひあっ」
ウィルクスは悲鳴をあげて中を締めつけた。
欲望があらわになりそうだ。ベルジュラックはそれを実感しながらウィルクスを責めた。「使い捨て」なら自分本位のセックスもするが、ウィルクス相手にそのつもりはない。最大限の快楽を感じさせて、自分のことを自主的に求めるように仕向けるのがベルジュラックの意図だった。それでも、ベルジュラックは自分のせいでひんひん泣いて狂うウィルクスを見ていると、欲望が暴走しそうになるのを感じる。
「可愛い人だ」
ベルジュラックはそっとささやくと、ウィルクスの膝がしらにキスをして、軽く自身を引いたあと、勢いをつけて全身を奥に押し込んだ。
「ひ……っ、むりっ……!」
ウィルクスはもがいたが、ベルジュラックにピストンをゆっくりにされて陥落した。体内にある肉棒に、ずっとそこにいてもらいたくて、すがりつくように締めつける。ベルジュラックは優しく腰を前後させ、筒から奥まで、余すところなく擦りあげ愛し尽くした。
「ジャン、ジャンっ……」
ウィルクスがうわごとのように名前を呼ぶと、ベルジュラックは彼の手を握った。ウィルクスの手が逃げようとするのをつかんで、手の甲に口づける。
「いますよ、ウィルクスさん」
ささやくと、ウィルクスの体から力が抜ける。勢いよく吐き出したあと、急速に意識を失ってソファに沈んだ。
ベルジュラックはしばらくピストンを続けていたが、性器をウィルクスの中から引き抜くと、ティッシュペーパーに射精した。
荒い息をつき、ウィルクスを見下ろす。まだ首筋まで真っ赤だ。涙と唾液でぐちゃぐちゃの顔で胸を上下させている。涙がたまった長い睫毛が震えていた。
寝顔を堪能したあと、ベルジュラックは彼の頬骨を指の背で撫でた。軽くキスをして顔を離すと、乱れた服をきちんと着はじめた。
◯
それから一時間後、ウィルクスは目を覚ました。目を覚ましたのは足音が聞こえたから。その足音も、極限まで抑えられていたが、しかしいくつもあるため、意識が呼び覚まされた。
目覚めたとき、なにが起こっているのかわからなかった。彼は抱き起こされ、男に顔を覗きこまれていた。
「大丈夫か、ウィルクス、意識はあるか?」
そう言って助け起こしてくれたのが、ヤードのハーパー警部補であるとわかる。ウィルクスはとっさに自分の体を見た。服をきちんと身につけていて、乱れはない。ただ、タイだけはなかった。
「ハ……ハーパー、おれ……」
頭がまわらず、言いたいことが思いつかない。ただ口をぱくぱくさせていると、年上の刑事はいたわるように笑った。
「大丈夫だよ、ウィルクス。助けに来たからな」
その声でウィルクスがあたりを見回すと、拳銃をかまえた刑事たちや制服警官たちが彼とハーパーを取り巻いていた。ラルフが出入りしていた扉から出てきたストライカーは、ウィルクスの顔を見ると緊張を緩めた。
「よかった、ウィルクス。おれたちと帰ろう。ミスター・ハイドも待ってるぞ」
その言葉に、ウィルクスの全身が震えた。涙がこみ上げると同時に、自分とベルジュラックがしたことを思いだした。自制しないと。頑なにそう思うのに、床に向かって吐いてしまった。
ハーパーがぎゅっとウィルクスの肩を抱く。
「救護班、来てくれ」
扉に向かって呼びかける声と重く素早い足音を聞きながら、ウィルクスは思った。
わざわざ刑事たちを呼んだのは、おれが自殺しないようにするためなんだ。
シド、とかすれた声で名前を呼ぶと、ハーパーが力づけるようにうなずく。
「そうだ、ハイドさんも待ってるよ」
真っ青になって震えながらウィルクスは目を閉じ、思いだしていた。夢の中のあの人は、今のおれを見ても微笑んでいた。
そのことを、彼は寂しいと思った。
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