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探偵と刑事と交換・二△
ベルジュラックは見透かすように言った。
「噛み切ってもいいですよ。ただし、そのあとどうなるかちゃんと考えてくださいね」
ウィルクスはぶるっと震えた。むだな抵抗をやめ、顎から力を抜く。すると、苦しさは少しましになった。突然欲情がこみあげてきた。
最低だ。おれは屑だ。ウィルクスはぼろぼろ泣きながら自分を蔑んだ。それでも、体は正直だ。股間に血が集まり、頭がぼうっとする。恐怖と嫌悪感から逃避したいあまり、したくてしたくてたまらなくなった。
意外なほど冷静な目でウィルクスを見下ろして、ベルジュラックがささやいた。
「いいですよ、ウィルクスさん。自分でしても」
ウィルクスの手が震えながら自らの脚のあいだに降りる。引っ掻くような手つきでパンツのボタンを外し、ジッパーを下ろした。
そのあいだにも、ウィルクスの口の中は肉棒でいっぱいになっていた。中から押しあげられて、頬がぼこっと膨らんでいる。ベルジュラックは上からその膨らんだところをつついた。うっとりと、「可愛いですよ」とささやく。
ウィルクスはぶるっと震えた。下着の中に手をつっこむと、はちきれそうに膨れあがった男根がぶるんと出てくる。ぎゅっと手のひらで包みこんで握ると、快感が電流のように走った。腰が反る。
いつのまにか、ウィルクスを操るベルジュラックの手が優しくなっていた。頭を固定させ、ゆっくりとウィルクスの口の中にピストンする。ウィルクスも口を開けて、自分の口が道具になっているのにも慣れてしまっていた。むしろ、そんなふうに非道に扱われると興奮した。
自分でもどろどろと先走りを吐き出すペニスを握って、扱く。手を動かすペースは、ベルジュラックがピストンを行うペースと同じだった。
「ウィルクスさん、おいしい?」
ささやくベルジュラックの声に、ウィルクスは目でうなずく。ベルジュラックはウィルククスの顔を両手で挟んで、目の中を覗きこんだ。
「ねえ、ぼくの目を見て、ウィルクスさん」
ウィルクスは彼の目を見た。見つめながら舌を絡め、喉に押し入ってくる亀頭を締めつけた。二人は見つめあい、ベルジュラックは表情を緩めた。
「そろそろ、出ますよ。力を抜いてて」
ウィルクスは言われたとおり、体から力を抜いた。口の中で、ベルジュラックの肉棒は痙攣をはじめる。少しして、顔を挟む手に力がこもった。喉の奥に濃いものを注がれて、ウィルクスはむせながら精子を飲みこむ。鼻からも逆流し、顔はどろどろになっていた。
ベルジュラックは口からペニスを引き抜こうとして、言った。
「精子、全部舐めてくださいね」
ウィルクスは出したばかりのベルジュラックのものに丹念にキスをし、舌で精子を軽く舐めとった。ハイドにも何度かしたことがあったため、そのときのことを思いだしながら掃除していく。そのあいだも、股間のあいだに入った手は動いていた。
「してあげますね」
掃除が終わると、ベルジュラックは床にしゃがみ、ウィルクスの脚のあいだに触れた。ウィルクスはびくんと跳ね、手を股間から外に出す。ぐじゅぐじゅに濡れそぼっているが、まだ達せていない。ベルジュラックは二、三度優しく扱いた。ウィルクスはすぐに出した。みるみるうちに体から力が抜けて、床にしゃがみこむ。青い顔で口を押さえた。
ベルジュラックはその姿を見下ろし、「吐きますか?」と尋ねた。ウィルクスは首を横に振る。手を下ろすと、呆けた顔でベルジュラックを見上げた。
ベルジュラックの唇に笑みが浮かぶ。彼はパンツのポケットからハンカチを取り出すと、ウィルクスの顔を拭いた。どろどろの汚れを丁寧に取る。頬についていたアンダーヘアも拭き取った。それからウィルクスの股間を拭き、自分の脚のあいだも拭く。ハンカチをソファに放るとパンツを履きなおし、ウィルクスにもまた元通り履かせた。
ウィルクスが虚ろな目をして胸を上下させていること以外は、情事があったことなど紛れてしまった。
ベルジュラックは彼を床からひっぱり起こし、ソファにむりやり座らせると、優しく言った。
「条件その二です。いいですか、ウィルクスさん。今からある人がこの部屋を訪ねてきます。その人相手に、ぼくと寝たのは自分が望んだからだと言ってください」
ウィルクスはよくわからなかった。ぼんやりしていたら、ノックの音が聞こえた。
どうぞ、とベルジュラックが答える。中に入ってきた人物を見て、ウィルクスは目を見開いた。
ヴィクトル・ラクロワ。パリ警視庁の刑事。
「ジャン」
そう言って中に入ってきたラクロワの顔は引き攣り、恐ろしいほど強張っていた。
彼は扉を閉めると、その前にたたずみ、ベルジュラックをウィルクスを見つめた。ラクロワは言った。
「ハイドさんに聞いたよ。きみがウィルクスさんにしたこと」
「ハイドさんが?」
ベルジュラックは驚いた顔をした。ソファから立ちあがり、ラクロワのほうに一歩踏み出す。ラクロワは一歩後退した。
「彼がなにを言ったか知らないが、ぼくは……」
「ああ、おれも信じられない。だが、今の状況を見ると、否定もできない」
「きみを傷つけるつもりはないんだ、ヴィクトル」
「おれよりウィルクスさんを傷つけただろ、それを考えてみろよ」
ラクロワの目が自分に突き刺さっている。それを意識して、ウィルクスは震えた。自分とベルジュラックがしたことが白日の下にさらされたような気がして、罪悪感と激しい羞恥心に身を焼かれた。微動だにできず、ラクロワの顔からさっと目を逸らす。
「ウィルクスさん」ベルジュラックが振り向いてゆっくり言った。
「ヴィクトルはああ言っていますが、あなたは……」
「おれは、自分から、好きでしたんです」
半ば壊れながら、ウィルクスはラクロワに言った。
「おれが屑の淫乱野郎だからいけないんです。ベルジュラックさんはなにも悪くない」
ウィルクスさん、とラクロワがつぶやいた。
「座れよ、ヴィクトル」ベルジュラックが声をかける。
「それとも、真相をたしかめたからもう帰るか? ぼくはゲイなんだ。きみには言ってなかったけど、ウィルクスさんのことが好きなんだ。これはぼくと彼の問題だ。だから、きみは気に病むなよ」
ラクロワの目がもう一度ウィルクスを見つめた。本当ですかと問うていた。
ウィルクスは必死で涙をこらえようとしていた。しかし、感情がついていかないのに涙があとからあとから溢れて、止まらなかった。
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