23 / 65

17.探偵と刑事と静かな話△

 デートの翌々日の午後五時半、シドニー・C・ハイドがストランド街に構えた探偵事務所にジャン・ベルジュラックが訪ねてきた。  フランスから来たこの記者は、一見ハイドの目になんの変哲もない若い男に見えた。……いや、なんの変哲もないというのとは少し違う。ベルジュラックはエネルギッシュだ。少し異様なほどに。とほうもなく大きな声を出したり、身振りが激しかったり、妙にはりきっているというわけではない。燃えるような明るい目と感じのいい、にこやかな口元をしている。シックで清潔感のある服に身を包んだ全身からは、まるで光るような才気煥発さが発揮されていた。  ベルジュラックの訪問は唐突だった。ちょうど午後五時に「訪ねていってもいいですか」という電話が事務所にかかってきたのだ。ハイドは電話のディスプレイに表示された番号を読んだ。ベルジュラックが泊まっているホテルからの発信だった。――もちろん、ハイドは彼の携帯電話の番号を知っていた。ベルジュラックがウィルクスに渡したメモから拾って、メモしてある。  エドがそのメモを捨ててしまったのは残念だった。持っていたら、なにかと役に立ちそうだったのに。例えば、筆跡とか……。  そこまで考えて、事務所でベルジュラックを待っていたハイドは一人首を振る。なぜそんなことをする必要がある?  確かにベルジュラックは変わった男だ。大胆――そう、大胆だ。それに人の心に取り入る才能がある(彼はとても魅力的で、あらゆる面で主導権を握っている)。しかし、彼は単なる新聞記者のはずだ。  その日のベルジュラックは、当初はハイドの考え通りの姿を見せていた。快活で頭がよく、大胆で……そのために、やや自惚れたところがある。肝が据わり、才能もある自分に得意になっている。どこにでもいる、若さに驕った青年だ。だからハイドはもっと注意深くなることにした。  彼はベルジュラックを事務所に案内し、暖炉のそばの椅子を勧めた。大きな、模造大理石にしては見事な暖炉だが、今の時代もう実用品ではない。ベルジュラックはその暖炉に感心していた。 「とても立派だ」  そう言って、椅子に座る前に暖炉を、というよりはマントルピースの上をしげしげと見ていた。 「こういった場所にはよく小物や写真立てを置いたり、時計を置いたりしますよね。ここには時計だけがある」 「あまり置くと、掃除が大変なので」ハイドは暖炉の脇に置かれた四角く小さな、どっしりした木のテーブルの上で、電気ケトルで湯を沸かしながら言った。「ものを飾る趣味はもともとないんです」 「写真があるのかと思いました。あなたとウィルクスさんの」  笑顔で屈託なく言ったベルジュラックにハイドも笑顔で答える。 「いいえ。そういうものを飾るつもりはありません。……人によっては、もの足りないと思う女性もいるでしょうね。幸いウィルクスはぼくのしたいようにさせてくれますから」  ベルジュラックは「へえ」とだけ言った。  二人は円形の小さなテーブル(これは本物の大理石)に置いたティーカップを挟んで向かい合った。ハイドはベルジュラックの黒い目を、ベルジュラックはハイドの薄青い目を見た。ハイドはこの青年の目を見て、なにも得るところがなかった。黒い目は感情が読み取りにくい。ただ艶々して、深く穴のようだった。ベルジュラックはハイドの目からいろいろなものを読み取った。瞳孔がやや開き、グレーの虹彩が目立っている。  彼は警戒している、ベルジュラックは正しく読みとった。若干の緊迫、しかし敵意はまだ見せていない。見事だ。余裕がある。ベルジュラックはうれしくなってにこっと笑った。ハイドも微笑みを返す。記者はグレーの上着のポケットに片手をそっともぐりこませた。ティーカップの持ち手に触れ、自然に視線を逸らしてにこやかに言う。 「先日、ホテルでお会いしたときの言葉通りに伺いました。仕事の話で」  ハイドはうなずき、椅子から立ちあがった。 「メモをとります。少し待っていてください」  彼は窓のそばに置かれた大型の仕事机まで歩いて行って、きれいに片づけられた引出しの中から手帳とペンを取りだした。そのあいだにベルジュラックは紅茶を一口飲んでいた。  ハイドが戻ってくると二人はまた視線を合わせた。今度は一瞬だった。ハイドは手帳に視線を落とし、やれやれといったかんじで老眼鏡を掛けた。ベルジュラックは紅茶をもう一口飲み、ポケットに入れた手を出した。ハイドはそのとき、彼の右手の中指に嵌っている指輪を見た。ごつごつして、少し暴力的なデザインに見えた。もしあれで殴られたら、血が目の中に入りこんできて一瞬ものが見えなくなるだろう……。 「ミスター・ハイド」カップをソーサーの上に置くとベルジュラックは言った。「よろしいですか?」  そこで話がはじまった。 「バルドー事件をご存知ですか?」  ハイドは手帳から顔を上げ、ベルジュラックを見た。探偵の目元に寄ったかすかな皺と緊張を見て、この人は思ったより目が悪い、老眼が進んでいるんだとベルジュラックは思った。ハイドは手帳を開き、ペンを持ったまま言った。 「バルドーということは、フランスの事件ですか?」 「そうです。ご存知のはずですよ。……あなたが関わっておられましたね」  ハイドはゆっくり手帳に「Bardot」と書いた。アンダーラインを引き、急に顔を上げて「確か、八、九年前の?」と尋ねた。ベルジュラックはうなずく。 「ええ。八年前の」  二人のあいだでしばし会話が途切れた。ハイドは虚空を見つめ、目元にやや力を込めていたが、やがて困り果てたように首を横に振った。 「確かにぼくが関わっていました。だが、詳細はすぐには思いだせませんね。ファイルもすぐには取りだせないし……」 「じょじょに思いだしますよ」  ベルジュラックはどこか快活に言った。ハイドはじっと記者の顔を見る。ベルジュラックも見返す。その青い目から感情や考えを読み取ることに、今回のベルジュラックは失敗した。彼は紅茶のカップに触れ、しかし口にはせずこう言った。 「ぼくはあの事件について調べています」 「今また、どうして? もしかして、フランスで新しい証拠が見つかったのですか? あの事件は確か……」 「そう、迷宮入りでした。ぼくも覚えていますよ。あのとき……」 「あなたはおいくつでしたか?」 「十七でした」  ベルジュラックは紅茶を飲み、カップをソーサーに置いてから言った。 「あのとき、パリ警視庁の刑事たちから犯人ではないかと目されていた人物がいました。名前はマクシム・デリダ、当時二十八歳。しかし、デリダは無罪ということになった。……あなたが嫌疑を覆したからです」 「思いだしてきた」  目を細めてハイドがつぶやいた。ベルジュラックは自分の左耳を触った。そういう癖があるらしい。脚を組み、穏やかな口調で話す。 「あのとき無実とされた人物。その人物がじつは犯人だったのではないか、と現在言われているのです」 「新たな証拠が見つかったのですか?」  ベルジュラックは曖昧な反応を返した。ハイドはそのときすぐにわかった。この男は自分の仕事をしているだけの、ただの記者ではない。尋問のとき、こちらから質問はするが、相手からの質問には答えない。警察の常套手段。あるいは、腹に一物ある人間の。そうでなければ、ふつうは質問に答える。これはまっとうな質問だ。  しかし、ハイドは彼が答えなかったという事実を意図的に無視した。ベルジュラックはやや姿勢を正す。彼はハイドより背が低いが、身ごなしが機敏なせいで、男としてこの探偵に劣っているような印象を誰にも与えないだろう。  ベルジュラックは言った。 「ミスター・ハイド、我々はあなたが細工をして、この人物を無罪にしたのではないかと考えています」  我々とは誰だ? ハイドはそう思ったが、ベルジュラックの言葉があまりにも核心を突くものだっただけに、なんだか少しおかしくなった。 「あの事件は」記者は続けた。「とても惨たらしいものでした。バルドー家の一家四人惨殺。拷問のような殺し方でした。それからペットのボーダーコリーも腹を裂かれて殺されていた」 「そう、惨たらしい事件だった。ぼくも遺体を見ました。覚えていますよ」 「夢に見ましたか?」  急に的外れとも思えることを、ベルジュラックは妙に熱っぽく尋ねた。ハイドは落ち着いて答えた。 「いいえ。見ませんでしたよ。一度も」 「そう」  ベルジュラックは微笑んだ。彼は静かにハイドを見て言った。 「あなたが小細工をして、あの事件の犯人を逃がしてやった。違いますか?」 「証拠は?」 「のちのち、お見せできるかと」 「あなたが記者として本当に調べているのなら、ミスター・ベルジュラック、わたしに手の内を見せないほうがいいですよ」 「ええ」ベルジュラックはにこっと笑った。まるで鳥が飛び立つように、その顔には笑顔だけが残った。「わかっています、ミスター・ハイド。答えをあなたが話すとも思えない。でも、ぼくは必ず真相を暴きます」 「そして? 新聞に発表するのですか?」  ベルジュラックはまた曖昧に笑った。 「あなたが勤めている新聞社は?」  ハイドの質問に、ベルジュラックは上着のポケットに手を入れ、名刺を取りだした。 「<アルバ紙>。……殺されたバルドー家の親戚が経営している新聞社です。一流になろうととても頑張っている」  ハイドは名刺を受けとり、眼鏡を外してじっと見つめた。彼は顔を上げ、うなずいた。 「なにかあればここに掛ければいいのですね。……あなたの携帯の番号は?」  ベルジュラックがそれに答えたので、ハイドは名刺の隅にメモした。  出ていくときに、青年は言った。 「ぼくは別に、あなたが悪しき人間だということを証明したいわけじゃない。そんなことはどうでもいいんです。ただ、真実には使い道がありますからね。おわかりでしょうが」 「ええ、わかりますよ」  二人の視線がまた合った。ベルジュラックは青い目に静けさを見た。軽蔑、怒り、不安や恐怖、混乱も当惑も浮かんでいなかった。ただとても静かで、思わずうれしくなってしまう。  ハイドは突然言った。 「きみはウィルクスを愛しているのか?」 「興味ですよ」ベルジュラックの微笑みはうわべだけのものだった。「愛の派生形です」 「興味だけでは愛にならない」  黒い目がじっとハイドを見つめた。青年は低い声でささやいた。 「あなたは愛している。それがあなたの弱いところだ」  確かにそうだ、とハイドは思った。ベルジュラックは言った。 「ぼくはウィルクスさんに恋してるんです」 「恋か。きみのいう恋とは?」 「マスタベーション」  ハイドは初めてかすかに嫌そうな顔をして、つぶやいた。 「きみの言っていることはわかる」  ベルジュラックは微笑んだ。それから事務所の扉を押し開ける。しかし突然振り返った。上着のポケットに入れた手を出す。指に挟んだ、折りたたまれ、テープを貼った小さな四角い紙片をハイドに渡した。 「それ、ウィルクスさんに渡してください。もちろんあなたは紳士だ。だから信用してますよ」  彼はそう言って、去っていった。  ハイドは彼の言葉のとおり、受けとった紙片を開かなかった。紅茶が残ったカップをキッチンで洗い、また事務所に戻ってきて、ベルジュラックから受け取った名刺に記された番号に電話を掛けた。  <アルバ紙>は実在するし、ジャン・ベルジュラックという記者も刑事事件担当として勤務している(当然だ)。ハイドは電話を切った。  探偵は考えた。ベルジュラックはあの原則をわかっているだろう。「侮っていた相手にやり返されることほど我慢のならないものはない」。本当に聡明な人間ならどんな敵も侮らない。そんな人間はめったにいないが。  この日のベルジュラックは、ハイドの目で見ればまったくもって聡明だった。  彼はウィルクスを待った。 ○  ウィルクスは午後九時過ぎに家に帰ってきた。一週間ほど前にリージェント街で起こった強盗殺人の捜査で、彼も刑事として補佐についていた。調べがなかなかうまくいかず、ロンドン市民は我がこととして恐怖を感じはじめている。なにしろ、フランスで恐怖を巻き起こしている残忍な犯罪者、エクス・エクスが関わっているかもしれないのだ……。  それでも、スコットランド・ヤードの刑事部は地道に捜査を進めている。警察医、鑑識、パリ警視庁などと連携して隙のない捜査の網を張り巡らせ、犯人を追い詰めようとしている。ウィルクスは他の刑事たちと同じ気持ちになっていた。一刻も早く犯人を逮捕したかった。疲弊しながらもどこか興奮していた。そして別の興奮も。  そのために、帰宅してハイドの顔を見たいという気持ちが抑えようもなく膨らんだ。  ウィルクスは事務所兼居間に入り、「戻りました」と結婚相手の背中に声を掛ける。ハイドは五時半にそうしていたように、扉に背中を向けて同じ椅子に座っていた。振り向かない彼に、ウィルクスは聞こえていなかったのかと思う。もう一度呼びかけようとしたとき、ハイドが振り向いた。 「おかえり、エド。今日も大変だったな」  いつもと変わらないハイドの笑顔に、ウィルクスは体じゅうから疲れが抜けていくような感覚を覚えた。スーツ姿のまま、微笑んでパートナーのほうに歩み寄る。  ハイドは椅子から腰をあげて彼を待った。ウィルクスが目の前まで来ると手を伸ばして紙片を渡した。刑事はぽかんとする。 「これは?」 「今日の夕方、ミスター・ベルジュラックが来てね」  ウィルクスは沈黙した。視線を落として受けとった紙片を見つめる。 「開けて、読んでみて」  ハイドに促され、ウィルクスはテープを剥がした。ホテルの便箋をはさみできれいに切ったもので、彼は真っ白いそこに書かれた文字を読んだ。それから紙をまた元のようにたたみ、ハイドに笑いかけた。 「この前はすみませんでしたって、それだけですよ」  ハイドがじっと見つめる。ウィルクスは青い瞳の感情が読めず、少し怯んだ。それで思わず口走った。 「あの、それから『またお会いしたく思います』って。でも、おれは断りますよ」  わかってるよと言って、ハイドは微笑んだ。ウィルクスはほっとして紙片をズボンのポケットにしまった。そして急にハイドを見つめ、目を細めた。焦げ茶色の瞳がうるみ、どこかだらしなくはにかむ顔になる。 「あの、シド……」刑事は目を見つめたままささやいた。「今夜、し、しませんか」  ハイドはかすかにうるんだ目を見返し、低く穏やかな声で言った。 「すまないが、今夜はだめだ。ちょっと、しなきゃいけないことができたから」  そうですか、とウィルクスは答えた。明らかにしゅんとした男を見て、仔犬みたいだとハイドは思った。垂れた尻尾が左右に揺れている。 「じゃあおれ……着替えてきます」  うん、と答えてハイドは彼が部屋から出ていく後ろ姿を眺めた。 ○  ウィルクスは自分の寝室に入るとバッグを床に置き、ポケットから取りだした紙片を開いてふたたび読んだ。 「ミスター・ハイドがあなたの思っているような人ではなかったらどうしますか」  それでも好きだよ、とそのときのウィルクスは思った。彼は紙片を細かくなるまで破き、ごみ箱に捨てた。  それからスーツを脱ぎ、タイを外し、ワイシャツとボクサーパンツ姿でベッドに腰を下ろした。とても疲れている。それなのに性欲を覚えて体と頭が興奮していた。そのときウィルクスは思った。疲れているからだ。  彼は心身がバランスを崩して不調に陥ると、セックスのことしか考えられなくなる。またアレが来たんだ、とウィルクスは気落ちした。情けなさと羞恥、それに自分に対する失望を覚えて苦しくなる。しかし今夜はもう、つきあってくれるはずのパートナーには言いだせない。  だから今夜はこれがある。  ウィルクスはベッドに置いたシャツを見た。ハイドがゆうべ、入浴前に脱いだグレーのボタンダウン・シャツ。ウィルクスはハイドの匂いが好きだった。鼻に近づけると甘く優しい匂いがして、脳と肉体がとろけていく。  のろのろとベッドの上にあがって下着を膝まで下ろす。それからはっと気がついて、ベッドサイドのテーブルの引き出しを開けてコンドームとローションを取りだした。それから、ハイドがいつでも使えるようにと置いてくれたバイブレーター。  肉体も脳もたぎっているため、ためらいを感じることはなかった。突き動かされるように性欲に忠実になる。ゴムを嵌めた人差し指と中指にローションを塗りたくり、四つん這いになって腰を掲げ、濡れた指先でゆっくり秘所に円を描く。  あの人も、いつもたくさん撫でてくれる……。ウィルクスは敏感な後唇を指で擦りながら思った。  いい子だね、エド、上手だよ。いけない子だ。よく我慢できたね。なんて淫乱な子だ。可愛いよ。  シャツを握りしめて顔を埋め、口に入れて甘噛みしながら、ウィルクスは大好きな声を思いだそうとした。その声は性欲の渇望に上擦って、低く、優しくときどき嬲る。  指を入れようとしたが、ふと頭のそばに置いたバイブレーターが目に飛び込んできた。ウィルクスは夢中で淡い紫色のバイブレーターにローションを塗りたくった。電気を浴びてそれはぬめぬめ光る。凝視したあと、そっと尻のあいだに押し当てた。ローションは少し冷たくて、敏感な場所がむず痒くなる。腰を揺すり、ためらいなく頭をぐっと中に押しこんだ。  体が跳ねたと同時に扉が開いた。 「ああ、ごめん」  ハイドはそう言って扉を閉めたが、二人の目はしっかり合っていた。ウィルクスの体からどっと汗が噴きだす。耳だけでなく首筋まで真っ赤になり、爆発的な動悸で吐きそうになる。彼は壊れたように目を見開き、扉から視線を逸らせなかった。  閉めた扉に片手をつき、ハイドは尋ねた。 「エド、ミスター・ベルジュラックがきみに渡した手紙を持ってるか?」 「あ……」  ウィルクスはぴくりと震えた。思わず秘所に埋めた頭をぎゅっと締めつける。 「い、いえ……や、破って捨てました」 「そうか」ハイドはつぶやいて、言った。「もしまた彼から手紙を受けとったら、捨てずにぼくに見せてくれないか。……ごめん、邪魔したな」  いいえ、とウィルクスはつぶやいた。全身から力が抜け、ベッドの上にへたりこむ。きっと引かれた。彼はつらくなって涙を浮かべた。  しかし、そうではなかった。  ハイドはふたたび事務所に降り、スマートフォンの連絡先をタップして電話を掛けた。しばらく待つ。すると向こうから胡乱な声がした。 「イヴか? シドだ」  彼が電話を掛けた相手は知人でフランスの作家、イヴ・ド・ユベールだった。ハイドは整理された仕事机の上に手を伸ばし、メモ帳とペンを探った。 「もしもし? 酔っぱらってるのか? きみにちょっと聞きたいことがあるんだが。……イヴ? 仕方ないな。また明日掛けるよ」  探偵は電話を切ると息をつき、休む間もなくノートパソコンを起動させた。彼はふたたび、過去に自分が扱った事件の記録をさかのぼりはじめた。  そして、一人寝室でうずくまるウィルクスのことはただの一度も思いださなかった。

ともだちにシェアしよう!