4 / 6
騎士の願い
いつだって、私は貴女を救えない。
1回目。
目覚めた貴女はとても弱々しく、とても見ていられなかった。ただ、そんな小さな存在が無関係のこの世界を救おうと努力している。
健気で、強い人だ。
私が彼を助けなければ、支えなければならない。使命だけではない。彼自身を私が、助けたかった。
ただ、彼の努力は一切報われることはなかった。
「俺、駄目だな、何にもできない。」
「そんなことはありません。例え災悪が止まらなくても、貴女から勇気を貰った人間は多くあります。」
「本当?」
事実、自身には何も出来ないのだと察した彼は、聖女に頼らず戦おうとする人間に加護を与えた。
それは見えない加護だったが、確かにそれはある。
小さな身体で必死に頑張る彼を愛さない人間などいない。少なくとも私は彼を愛していた。
「愛してる。」
そう告げれば、貴女は美しい笑顔を咲かせた。
しかし、不幸は巡ってきてしまった。新しい聖女様が現れたのだ。酷く怯え、自身の未来を暗示する彼を抱きしめた。
必ず守る。
約束をした。
新たな聖女様につくように命名されたのはその後直ぐだった。
拒否をした。
私が生涯を誓ったのはあの人だと告げた。
しかし、私が新たな聖女付きになれば、彼の身は保証すると伝えられた。もし、拒否をすれば彼がどうなるか分からない。
災悪が治るまでと誓い、新たな聖女付きとなった。ただ、その判断が不幸を呼んだ。少し我儘な新たな聖女様の目を掻い潜り、彼の元へと行くのには手間がかかった。
説明をとそう考え、急ぐ足。少しドアが開いていた。何事かと覗くと、彼はナイフで胸を貫き、死んでいた。目の前が真っ暗になり、彼に近寄る。
「なぜ、こんなことを…。」
返ってこない返事。
穏やかに眠っている。
呼び掛けても、呼び掛けても、彼は目を覚さない。自死だと直ぐに分かった。後悔した。彼が死んでしまうくらいなら、ずっと傍にいれば良かった。彼が死んでしまうのなら、一緒に逃げて仕舞えば良かった。
そしたら、私がずっと傍にいて、ずっと護っていられたのに。
何が騎士だ。
何が護るだ。
何も出来ないただの男だ。
彼を抱きしめる。
一緒に死のう。
彼がいない世界など用はない。
死してまた会おう。
今度は間違えない。
『待て待て、早まるなよ。お兄さん。』
「だれだ!」
突然聞こえた声に振り向く。
『こっちこっち。』
目線を動かすと、何か小さな生き物がそこにはいた。
「あっ、やっと認識してくれた。」
「妖精…。」
「そっ、僕は妖精。ねぇ、彼のこと生き返らせたい?」
「当たり前だっ!」
「ふふふ、なら手を貸してあげる。」
全く信用に値しない。突然現れ、突然奇跡を起こすと言う。何のメリットもない行為だ。
「対価はなんだ。」
「対価はね、君の記憶だよ。」
目を閉じる。
何度記憶を無くそうと必ず貴女を愛するはずだ。傲慢にも似たその想いは彼を助ける為の愚かな選択肢となった。
「いい。彼を助けてくれ。」
妖精の甘美な誘いに乗り、俺はまた愚かな選択をした。
「どうしてだ。何故こんなことに。」
記憶を取り戻した瞬間に、彼はすでにこの世を絶っていた。
何度目だ。
何度彼は死んだ。
「何が記憶を無くしてもまた愛すだ。愛していないじゃないか。護れていないじゃないか。どうして彼がこんな汚されている。」
誰かに犯された後。
愛した人が絶望の中死んでいる。
こんなことあっていいのか。
こんなことあって良いはずないだろう。
私はただ、また貴女の笑顔を見たかっただけなのに。
「くすくす、また失敗したね。」
「黙れ!貴様、知っていたな。こうなる運命を!」
「そりゃあ、少し考えれば分かったはずだよ。でも、それを望んだのは君の方だ。さぁ!始めよう!終わることのない。これは終わらない運命だよ。」
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…。」
私は彼を殺してやることが出来ない。
だって、俺は、俺は…。
愚かにもまだ彼を…
愛している。
ともだちにシェアしよう!