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騎士の願い

いつだって、私は貴女を救えない。 1回目。 目覚めた貴女はとても弱々しく、とても見ていられなかった。ただ、そんな小さな存在が無関係のこの世界を救おうと努力している。 健気で、強い人だ。 私が彼を助けなければ、支えなければならない。使命だけではない。彼自身を私が、助けたかった。 ただ、彼の努力は一切報われることはなかった。 「俺、駄目だな、何にもできない。」 「そんなことはありません。例え災悪が止まらなくても、貴女から勇気を貰った人間は多くあります。」 「本当?」 事実、自身には何も出来ないのだと察した彼は、聖女に頼らず戦おうとする人間に加護を与えた。 それは見えない加護だったが、確かにそれはある。 小さな身体で必死に頑張る彼を愛さない人間などいない。少なくとも私は彼を愛していた。 「愛してる。」 そう告げれば、貴女は美しい笑顔を咲かせた。 しかし、不幸は巡ってきてしまった。新しい聖女様が現れたのだ。酷く怯え、自身の未来を暗示する彼を抱きしめた。 必ず守る。 約束をした。 新たな聖女様につくように命名されたのはその後直ぐだった。 拒否をした。 私が生涯を誓ったのはあの人だと告げた。 しかし、私が新たな聖女付きになれば、彼の身は保証すると伝えられた。もし、拒否をすれば彼がどうなるか分からない。 災悪が治るまでと誓い、新たな聖女付きとなった。ただ、その判断が不幸を呼んだ。少し我儘な新たな聖女様の目を掻い潜り、彼の元へと行くのには手間がかかった。 説明をとそう考え、急ぐ足。少しドアが開いていた。何事かと覗くと、彼はナイフで胸を貫き、死んでいた。目の前が真っ暗になり、彼に近寄る。 「なぜ、こんなことを…。」 返ってこない返事。 穏やかに眠っている。 呼び掛けても、呼び掛けても、彼は目を覚さない。自死だと直ぐに分かった。後悔した。彼が死んでしまうくらいなら、ずっと傍にいれば良かった。彼が死んでしまうのなら、一緒に逃げて仕舞えば良かった。 そしたら、私がずっと傍にいて、ずっと護っていられたのに。 何が騎士だ。 何が護るだ。 何も出来ないただの男だ。 彼を抱きしめる。 一緒に死のう。 彼がいない世界など用はない。 死してまた会おう。 今度は間違えない。 『待て待て、早まるなよ。お兄さん。』 「だれだ!」 突然聞こえた声に振り向く。 『こっちこっち。』 目線を動かすと、何か小さな生き物がそこにはいた。 「あっ、やっと認識してくれた。」 「妖精…。」 「そっ、僕は妖精。ねぇ、彼のこと生き返らせたい?」 「当たり前だっ!」 「ふふふ、なら手を貸してあげる。」 全く信用に値しない。突然現れ、突然奇跡を起こすと言う。何のメリットもない行為だ。 「対価はなんだ。」 「対価はね、君の記憶だよ。」 目を閉じる。 何度記憶を無くそうと必ず貴女を愛するはずだ。傲慢にも似たその想いは彼を助ける為の愚かな選択肢となった。 「いい。彼を助けてくれ。」 妖精の甘美な誘いに乗り、俺はまた愚かな選択をした。 「どうしてだ。何故こんなことに。」 記憶を取り戻した瞬間に、彼はすでにこの世を絶っていた。 何度目だ。 何度彼は死んだ。 「何が記憶を無くしてもまた愛すだ。愛していないじゃないか。護れていないじゃないか。どうして彼がこんな汚されている。」 誰かに犯された後。 愛した人が絶望の中死んでいる。 こんなことあっていいのか。 こんなことあって良いはずないだろう。 私はただ、また貴女の笑顔を見たかっただけなのに。 「くすくす、また失敗したね。」 「黙れ!貴様、知っていたな。こうなる運命を!」 「そりゃあ、少し考えれば分かったはずだよ。でも、それを望んだのは君の方だ。さぁ!始めよう!終わることのない。これは終わらない運命だよ。」 「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…。」 私は彼を殺してやることが出来ない。 だって、俺は、俺は…。 愚かにもまだ彼を… 愛している。

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