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第一章・6

「当店で最も高いコーヒーは、お客様にはお勧めできませんが」 「だーかーらー。いくら?」 「ブラックアイボリーが、一杯10,000円でございます」  少年たちは、悲鳴を上げた。 「高すぎ!」 「信じられない!」  さすがの早紀も面食らった様子だったが、その形の良い唇を上にあげて言い放った。 「それ、5人分。和菓子も付けてね」 「早紀!?」 「お前、やめとけ!」  しかし、大丈夫、と早紀は涼しい顔だ。 「今月のお小遣い、もらったばっかりなんだ。まだほとんど、使ってないから」 「さすが、富豪」 「一か月のお小遣い、10万円だもんな……」  まさかの切り返しを受け、衛は苦笑いをしてカウンターへと引き下がった。 「負けた。本当に、注文してくるとはね」 「いいんですか、マスター」  こちらから言い出したことだ、と衛は秘蔵の高価な豆を出した。  100グラムで30,000円以上もする、高級品だ。 「それを、コーヒーの味もろくに解らない高校生に出すだなんて」 「まあ、これを機にコーヒーファンになってくれれば、未来は明るいよ」  衛はそう笑って、心を込めてコーヒーを淹れた。

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