6 / 145
第一章・6
「当店で最も高いコーヒーは、お客様にはお勧めできませんが」
「だーかーらー。いくら?」
「ブラックアイボリーが、一杯10,000円でございます」
少年たちは、悲鳴を上げた。
「高すぎ!」
「信じられない!」
さすがの早紀も面食らった様子だったが、その形の良い唇を上にあげて言い放った。
「それ、5人分。和菓子も付けてね」
「早紀!?」
「お前、やめとけ!」
しかし、大丈夫、と早紀は涼しい顔だ。
「今月のお小遣い、もらったばっかりなんだ。まだほとんど、使ってないから」
「さすが、富豪」
「一か月のお小遣い、10万円だもんな……」
まさかの切り返しを受け、衛は苦笑いをしてカウンターへと引き下がった。
「負けた。本当に、注文してくるとはね」
「いいんですか、マスター」
こちらから言い出したことだ、と衛は秘蔵の高価な豆を出した。
100グラムで30,000円以上もする、高級品だ。
「それを、コーヒーの味もろくに解らない高校生に出すだなんて」
「まあ、これを機にコーヒーファンになってくれれば、未来は明るいよ」
衛はそう笑って、心を込めてコーヒーを淹れた。
ともだちにシェアしよう!