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第一章・7
「お待たせしました」
二つのトレイにコーヒーカップを分け、衛はウエイターの宮木(みやき)と一緒に早紀たちの席へ歩いた。
「来た!」
「なぁ、飲むの?」
「ホントに、飲むの?」
やたらと可笑しそうな早紀に、やけに不安そうな友人たち。
その対比が、衛には妙に感じられた。
「どうかなさいましたか?」
「ね、お兄さん。このコーヒー、象のうんこなんでしょ!」
早紀がそう言い放つと、周囲の少年たちは腹を抱えて笑った。
どうやら衛がコーヒーを淹れる間に、スマホで検索して豆について調べたらしい。
「よく、ご存じで。ですが、味は保証いたしますよ」
衛は穏やかに答えたが、そうは言われてもなかなか手が伸びてこない。
そんな中、早紀が一番にカップに口を付けた。
「話のタネにさ、飲んでみようよ」
冷やかし半分に飲んでみたコーヒーだったが、早紀はその味に魅了された。
(いい香り。それに、苦みがマイルドで棘がない)
「……」
黙ってしまった早紀を、友人たちは茶化した。
「やっぱ、うんこ味?」
「臭う?」
「ゾウのうんこって、どんな臭いだよ」
くすくすと笑いが上がったが、顔を上げた早紀は、目を輝かせていた。
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