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第一章・8
「美味しい。すっごく!」
「それは良かった」
嘘だろ、マジか、との声が飛び交ったが、早紀は大まじめだった。
「ホントに美味しいって! 飲んでみてよ、ほら!」
後は賑やかな試飲会になった、男子高校生の集団だ。
衛は、カウンターに引き上げた。
「あれ? あのお兄さんは?」
「ああ、さっき行っちゃったよ」
早紀が顔を上げると、すでにカウンターで他の客と話している衛の姿があった。
(もう少し、お喋りしたかったな)
高校生に、10,000円のコーヒーを売る大人。
それだけ聞けば悪どい響きがあるが、早紀の感想は違っていた。
(僕を、一人前に見てくれたのかな)
それは何だか嬉しい、大人へのステップのようだ。
「早紀! 和菓子、美味いよ!」
「え? あ、うん。僕も、食べる!」
名前は何ていうのかな。
年齢は、いくつなのかな。
第二性は、やっぱりアルファなのかな。
一杯のコーヒーから、いくらでも謎は湧いて出た。
早紀と、衛の出会いだった。
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