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第二章・2
翌日の放課後、早紀は塾に行くと言って友人たちと別れた。
だが、訪れたのは塾ではなく、昨日のカフェ。
「何か、気になるんだよね」
一杯10,000円のコーヒーを出した、あのマスター。
名前くらい、知りたかった。
店に入ると、昨日と同じように柔らかな明かりと心地よい音楽が、早紀を迎えてくれた。
そして、芳しいコーヒーの香りも。
「いらっしゃいませ」
それから、あのマスターも。
「こんにちは!」
「君は、昨日の」
衛は愛想笑いをしながら、早紀に先手を打った。
「ブラックアイボリーなら、もう出せませんよ。豆が無くなってしまいましたからね」
「じゃあ、マスターのお勧めをちょうだい」
では、と慣れた手つきで衛はコーヒーを淹れ始めた。
その鮮やかな手さばきを見ながら、早紀は彼にいろいろと問いかけた。
「お兄さん、名前は何ていうの?」
「弓月、です。弓月 衛」
「年齢は?」
「32歳ですよ」
「第二性は、アルファ?」
「よく、お解りで」
何だか尋問されているようだ、と衛はコーヒーが落ちる間、早紀を見た。
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