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第二章・5
秋の深まりとともに、早紀はほぼ毎日カフェに立ち寄った。
ある時は、友達と一緒に。
ある時は、塾の前に。
ある時は、塾帰りに。
塾帰りの時は時刻が遅いので、衛にたしなめられたが。
「未成年が、こんな夜更けに来ちゃいけない」
「まだ10時だよ? それに僕、もう18歳だもんね」
18歳は、早紀にとっては待ち焦がれた大人の年齢で、衛にとっては危うい子どもの年齢だった。
「早紀くんは、オメガなんだから。暗い夜道は危険だ」
「タクシーでいつも帰ってるから、平気」
ああ言えば、こう言う。
そんな反抗的なところも、衛にとってはまだまだ幼い。
しかしそれでも、早紀が言えば嫌味に聞こえない。
持って生まれた愛嬌が、衛と早紀の間をずいぶん狭めてきていた。
「そうだ。今度の日曜日、父さんと一緒にここに来るよ」
「お父さんと?」
夜遅くに息子をこの店に入れないでいただきたい、とでも言われるかな。
そんな風に衛は考えたが、早紀の話は違っていた。
「ブラックアイボリー、飲んでみたいんだって」
「それはそれは」
衛は、肩をすくめた。
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