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第二章・6
「あまりうちの裏メニューを、吹聴しないでくれよ?」
「他の誰にも言ってないよ」
今日はマンデリンを飲みながら、早紀は父について話した。
一流企業の、社長であること。
とても優しくて、おおらかな人間であること。
仕事も家庭も大切にする、素敵な父親であること。
「僕も大人になったら、父さんの会社に勤めたいな。経営を一緒にできたら、嬉しいな」
「早紀くんは、お父さんが大好きなんだな」
「うん。父さんみたいな人に、なりたい」
そこへドアベルが鳴り、一人の男性が店内に入って来た。
「早紀。やっぱり、ここにいたのか」
「父さん?」
塾が終わったら、すぐに帰らなきゃダメじゃないか。
そう言って、父・紀明は早紀の頭にぽんと手を乗せた。
「ごめんなさい。でも、よくここが解ったね」
「カフェ・メビウス。ホームページを見ましたよ」
紀明は早紀にではなく、衛に向かって言った。
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