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第二章・7

 息子がいつも、お世話になっております。  紀明は、そう衛に頭を下げた。 「メビウスさんの話は、いつも息子から聞いております」 「それは光栄です」  大人の定型的な挨拶がつまらない早紀は、父に向って乗り出した。 「ね、父さん。ちょうど良かった。飲もうよ、ブラックアイボリー」 「ん? あぁ、すまない。父さん、ちょっとマスターと話がしたいんだ」  そして、先に帰っていなさい、と言うのだ。 「えぇ? 嫌だ。父さんと一緒に、コーヒー飲みたいよ」 「我がまま言わないで、今夜は先に帰りなさい」  優しいが、二度言わせたことをきかないと、怖い父だ。  早紀はしぶしぶ、カウンターを離れた。 「ちゃんとタクシーで帰るんだぞ」 「はーい」 「遅いから、先に寝てなさい」 「はい」  唇を尖らせて、不服そうな返事をしながら出て行った早紀を見送り、紀明は改めて衛に向き合った。 「実は、今日はお願いがあって伺いました」 「何でしょうか」 「早紀を……、ここで雇ってはいただけないでしょうか?」  あまりにも突然な、そして意外過ぎる紀明の申し出だった。  衛は、すぐには返答できなかった。

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