17 / 145

第三章・2

 このカフェのことは、毎日のように話していた、と紀明はコーヒーで体を温めながら語った。 「飽きっぽい早紀が、毎日通って。そして、弓月さん。あなたのことも」 「私を?」 「大人で、優しい方だ、と。憧れている、と話しています」  まさか、あの早紀くんからそんな風に思われていたとは。  だが、衛はあえて黙っていた。  早紀の父親に、和菓子を勧めて聞いていた。 「数年、地下に潜ろうと思っています。もちろん、また日の当たるところに出られるよう、努力はします」 「身を隠すような、危険が?」 「借金取りが、厄介です。どうやら、暴力団まがいの連中らしくて」  それは確かに隠れなければ、と衛は眉根を寄せた。  高額の保険金を掛けさせられ、自死を装って殺される恐れがある。 「しかし、私のような人間に、大切な息子さんを。早紀くんを預けてもよろしいので?」 「早紀はまだ若く、しかも第二性がオメガです。もし、奴らに目を付けられれば、風俗に売られます」 「そんな……」 「私は、早紀を信頼のおける人間に、預けておきたいのです。隠しておきたいのです」  確かに、隠すには絶好のポイントだろう。  このカフェは、目立たないところでひっそりと営業しているのだから。

ともだちにシェアしよう!