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第三章・4

 翌朝、衛が営業中の看板を手にしてカフェを出ると、そこにはうなだれた早紀がしゃがんでいた。  傍には、赤いスーツケース一個。  衛は、全てを察した。 「おはよう」 「……」  返事がない。 「お父さんの最後の顔、覚えてる?」 「……笑ってた」 「そうか」 「昨夜、ここで。メビウスで会った時には、笑ってたのに。だのに、どうして」  早紀は、手にした手紙を衛に渡した。  そこには、衛が昨晩耳にした、紀明の事情が綴られていた。  初めて見る、早紀の泣き顔。  そこにいるのは、大人に背伸びする生意気な少年ではなく、打ちのめされた子どもだ。  とにかく、と衛は早紀を店内にいざなった。 「中に入るんだ。こんな寒い所にいると、凍えてしまう」  幸い他に客は無く、バイトの宮木もまだ出勤していない。  衛は厚切りのチーズトーストを焼き、ブレンドと一緒に出した。 「食べて、飲むんだ。人間、お腹がすいていると碌なことを考えないからな」 「ありがとう」  涙で腫れた瞼の早紀は、痛々しかった。  少しでも、彼を癒してあげたい衛だった。

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