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第三章・6

 本がある、とは聞いたが。 「すごい。コーヒーの本が、こんなにたくさん!」 「紅茶の本もあるぞ」  後は、接客のハウツー本や、語学の本なども置いてある。  勉強すべきことは、山ほどあるということだ。 「とりあえずは、寝なさい」  衛はそう言って、柔らかな毛布を早紀に渡した。 「朝なのに」 「たっぷり眠って、傷を癒すんだ。早紀くんの心の、傷を」 「……そうだね」  朝起きたら、誰も家に居なかった。  しんと冷たいリビングのテーブルに、父からの手紙が置いてあったきり。  そしてそこに書かれていたことは、早紀の全てを失わせるものだったのだ。  学校も、進学も、友達も、家も、両親も。

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