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第四章・4

「夕食は、簡単に鍋にしたよ」 「ええ? 簡単じゃないよ。ありがとう」 「簡単だよ。食材、切るだけなんだから」  大皿に盛られた多種の野菜に混じってあるのは、ぷるんとした肉だった。 「何、これ。何の肉?」 「魚だよ。アンコウ」 「アンコウなんて、食べられるの!?」  鍋といえば、高級和牛のすきやきや、フグのしゃぶしゃぶを食べてきた早紀だ。  まさかの深海魚を食べることになろうとは! 「チョウチンアンコウじゃないよ。コラーゲンたっぷりで、美味しいぞ」  ぐつぐつと煮えたアンコウを、早紀は恐々口にした。 「美味しい!」  淡白で臭みがなく、上品な味わいだ。  初めて食べる味に、早紀は笑顔になった。 「美味しいよ、衛さん」 「小骨が時々あるから、気を付けて」  昼食を食べずに、昏々と眠っていたのだ。  鍋は食べ盛りの早紀のお腹に、あっという間に収まって行った。 「鍋はいいな。温まるから」 「僕、汗かいて来ちゃった」  ようやく見えた早紀の笑顔に、衛はホッと安心した。

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