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第六章・5

「ベッドは、どうしようか。ネットで済ませるか? 家具屋に見に行ってもいいが」 「そのことなんだけど、衛さん」  僕たち、恋人だよね?  念を押した上で、早紀は衛の手を握った。 「寝室は、一つでいいと思うんだ。その方が、部屋も広く使えるし」 「毎日、一緒に寝るのか?」 「ダメ?」  ダメではないが、と衛は薄く唇を開けた。 (早紀のお父さんがこの状況を知ると、怒るだろうな……)  衛の人柄を見込んで、大事な息子を預けた父だ。  それが、翌日には恋人として、手なんか繋いじゃってるのだ。 「別に、毎日エッチしたい、って言ってるんじゃないんだよ。ただ、傍にいて欲しいんだ」   そう言う早紀は、少し悲しそうな表情をしていた。 (やはり、まだ辛いんだな)  衛は、早紀の手を握り返した。 「私で良ければ、喜んで抱き枕になろう」 「ありがとう!」  そして不意をついて、早紀は衛の頬にキスをした。 「おいおい。誰にでも、こんなことしてたのか?」 「してないよ。衛さんだけ!」  どうだかな、とぼやきながら、衛は早紀と共にスーツケースを解いた。  中からは、早紀の持ち物がどんどん出てくる。 (これらは、元は実家に置いてあったんだな……)  居場所が変わり、早紀は大丈夫だろうか。  この品々を見て、悲しくなったりしなければいいが。  見ると早紀は、やはり固い表情をしている。  しかしその目は、もう涙をたたえてはいなかった。

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