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第六章・8
マンションに帰ると、早紀はさっそくエプロンを身に着けて衛の前に立った。
「じゃーん! どう? 似合う?」
「最高だ」
笑顔の早紀が、衛にはまぶしく見えた。
これで少しでも、前向きに人生を歩んでくれれば。
そう祈らずには、いられなかった。
明日からの早紀の働きを、祈らずにはいられなかった。
そんな念を込め、彼の首にネックストラップをかけた。
「衛さん、何これ」
「名札だ」
「それは解るけど。何で『研修生』って書いてあるの!?」
「その方が、万が一粗相をしたときに、大目に見てもらえるかと思って」
もう! と早紀は頬を膨らませた。
「粗相なんか、しないよ!」
「いや、頼むから。それは付けていて欲しい!」
膨らませた早紀の頬に、衛は素早くキスをした。
「あ、もう! ずるいよ!」
こう来られては、言うことを聞かざるを得ない。
「OKか?」
「……もう一度、唇にしてくれたら」
では、と衛は優しく早紀にキスをした。
初めての頃に比べると、少し恋人らしくなったキスだった。
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