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第七章 デビュー
次の日の早朝、早紀は衛と共にレクサスに乗りカフェへ向かった。
「ああ、眠いよ」
「うちはモーニングもやってるからな。毎朝、早いぞ」
車内で少しウトウトしたが、到着するころには早紀の目はぱっちりと開いていた。
(いよいよだ。僕の新しい生活が、始まるんだ)
目を輝かせて店内に入る早紀を見て、衛は安心した。
(これが少しは、生活の張りになってくれれば)
そんな風に考えて、笑顔になった。
店内に入るなり、いそいそとカウンターに入る早紀。
そして、こう言った。
「さ、早く美味しいコーヒーの淹れ方、教えて!」
「それはまだ、少し早いな」
喉で笑いながら、衛はモップを早紀に手渡した。
「まずは、掃除からだ」
「あ、そうか」
掃除なら、簡単だ。
学校で毎日やっていたから。
「終わったよ! コーヒーの淹れ方……」
「まだまだ。次はテーブルを拭いて。アルコールで除菌だ」
むぅ、と早紀は先回りをして訊いてみた。
「いつになったら、教えてくれるの?」
「それは、まず掃除や洗い物、接客を身に着けてからになるな」
くしゅん、と早紀は肩を落とした。
この調子では、まだまだ先になりそうだ。
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