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第七章・2

 早紀は店内を磨き上げ、グリーンに水をやった。  しかし、手を抜くことはしなかった。  これは、修行。  衛さんは、きっと僕を試してるんだ。  そう考えて、頑張った。  気分を悪くして、雑に振舞ったりしたら、きっと嫌われる。 (僕、衛さんの恋人だもんね。恋人のお店を一緒に経営するなんて、素敵だもんね)  鼻歌など歌いながら仕事をこなす早紀に、衛は少々驚いていた。  正直、アルバイトの足しになる程度の働きだろうと、たかをくくっていた。  それなのに、早紀は上機嫌で与えられた仕事を十二分にこなしているのだ。 「早紀、お疲れ様。さあ、オープンだ」 「はい!」  早紀は『営業中』の看板を、表に出した。  そこには、もうすでに数人の客がやってきていた。 (何だ。意外に商売繁盛してるんだね)  みんな、メビウスのモーニングを目当てに集まっているのだ。 「おはようございます、みなさん! お待たせしました!」 「お、元気だね」 「新しい、バイトくん?」  早紀の挨拶は、客を喜ばせた。 「いらっしゃいませ。寒かったでしょう、ごめんなさい。さ、どうぞ中へ」 「ありがとう。お邪魔するよ」 「気が利くね」  いらっしゃいませ、以上の温かな言葉は、客の心を温めた。

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