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第七章・3
客は全てが常連さんなので、衛はオーダーを聞くことなく準備を進めて行った。
(皆さん、モーニングセット。吉井さんは、パンをカリッと焼く。三村さんは、ブレンド濃い目。下條さんは……)
「衛さん、オーダー取って来たよ!」
「早紀。わざわざ訊いてくれたのか?」
えへへ、と早紀は得意げだ。
「皆さん、モーニングセット。吉井さまは、トースト固め。三村さまは、コーヒー濃い目にして。下條さんは、卵を半熟にしてね」
「ありがとう。了解したよ」
店を見回し客に目をやってみると、みんなこちらを見て軽く頷いている。
(皆さん、ありがとうございます)
きっと、早紀を早く一人前にしてあげようと、協力してくれたのだろう。
そんな温かな心に、衛は張り切ってコーヒーを淹れた。
「マスター。新しいウエイターくん、なかなかやるじゃないか」
「ありがとうございます」
「明るい、いい子だね」
「はい。おかげさまで」
そして。
「なぜ、『早紀』って呼んでるの?」
しまった。
(仕事中は『早紀くん』と呼ぶべきだったか)
一瞬返答に困った衛の代わりに、早紀が笑顔で応えた。
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