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第八章 乾杯

 就業の5分前、宮木はメビウスに現れた。 「宮木くん。定刻ちょうどに来ていいと、いつも言ってるのに」  支度も勤務のうち、と考える衛は、就業の5分前や10分前に出勤することを強要しない。  それでも宮木は、真面目に5分前行動をするのだ。 「俺が、好きでやってることですから」  そう言って荷物を置き、手をきれいに洗ってエプロンを付ける。  戦闘準備完了、と言いたいところだが、今日は勝手が違っていた。 「宮木くんに、紹介したい人がいるんだ」 「よろしくお願いします!」  そこにいたのは、見覚えのある顔だった。 「君は確か、メビウスがオープンしたての頃に……」  友達と一緒に賑やかに騒いで、ブラックアイボリーを飲んだ男子高校生! 「マスター。まさか、この子」 「そのまさか、だ。ここで働いてもらうことになった」 「梅ヶ谷 早紀です!」  宮木は、目をぱちぱちさせた。  訊きたいことは、たくさんある。  しかし衛は、ただ一言。 「宮木くん、彼をよろしく頼む」 「はあ……」  マスターに頼まれれば、嫌とは言えない宮木だ。  そこで早紀に、手を差し伸べた。

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