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第八章・7
「衛さん、何を頼んだの?」
「居酒屋メニューの定番だ」
焼きおにぎりに、ブリかま。
揚げ出し豆腐に、焼き鳥の盛り合わせ。
「すごい。大きな卵焼き!」
「名物の、ジャンボだし巻き卵だ」
こんな料理、初めて見る。
こんな料理、初めて食べる!
早紀はそこで、ふと父を思い出した。
(父さんと一緒に、来てみたいな)
「早紀、飲み物のお代わりは?」
「え? あ、まだいいよ」
衛は、早紀の微妙な変化に気が付いていた。
そして、あえて口にした。
「早紀が20歳になったら、お父さんと一緒に飲みに来るといい」
「うん。そうだね」
そう、あと二年。
それまでに、父さんと再会できるかもしれないし、できないかもしれない。
(でも僕は、前を向いて生きるんだ)
それが、父さんの願いなんだから。
「衛さん。この、もちもちチーズ揚げって、食べてみたい!」
「いいぞ。どんどん頼もう」
賑やかで、ご機嫌な人たちに囲まれて、二人は酔った。
ノンアルコールで、未来へのささやかな希望に、酔った。
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