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第九章 クリスマスシーズンがやって来た
ショッピングモールのテナントが、美しく着飾る季節がやって来た。
赤に緑の組み合わせ。
金に銀のきらめき。
流れる音楽も、楽しげで軽やかだ。
クリスマスシーズンが、やって来た。
「だのに、なぜ」
早紀は、衛を睨んだ。
「ねえ、ツリーくらい飾ろうよぅ」
「そういう、浮ついたものは要らない」
「ケチ!」
ぷん、と早紀は休憩室へ向かった。
早紀の勤務時間は、午前8時から午後6時まで。
その間、1時間ずつの休憩を二回入れる。
カフェは午後8時まで空いているが、残り2時間は休憩室で衛を待っている。
『先に、マンションへ帰っていてもいいんだぞ?』
そう、衛は言ってくれたが、早紀はカフェに残ってのんびりと過ごしていた。
以前は、午後10時まで開いていたメビウスだが、早紀を雇うに当たって営業時間が短くなった。
秀一の勤務時間も削らざるを得なくなったが、そこは時給を上げて我慢してもらった衛だ。
全てが早紀中心に変わった、カフェ・メビウス。
しかし衛は、それでも気を悪くすることは無かった。
早紀のためなら、全てを受け入れた。
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