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第十一章・2
「楽しんでね、クリスマス」
「24日は、バイト早上がりさせてもらうよ。ごめん」
いいからいいから、などと言っていると、衛が顔をのぞかせて来た。
「早紀、ちょっといいか。グループのお客様が入って、人手が足りない」
「はーい」
早紀が出て行き、休憩室は秀一だけになった。
「早紀くん、いつも朗らかでいいよな」
過酷な逆境に置かれながらも、明るい笑顔を振りまく少年。
メビウスをクリスマスカラーに塗り替えたのも、彼の功績だ。
「俺から、何かしてあげられないかな」
そんな風に、秀一は考えるようになっていた。
せめて、クリスマスに何かプレゼントでも。
「いや、俺には付き合ってる人がいるから。そんなことは……」
しかし、クリスマスに贈り物をするくらい、浮気にはならないのでは?
「でも、肝心の早紀くんは受け取ってくれるのかな」
マスターを恋人と公言してはばからない、早紀だ。
一方的な好意は、かえって迷惑かも……。
そこで秀一は、ふと気づいた。
「早紀くん、マスターのマンションで一緒に住んでる、って言ってたな」
と、いうことは。
「あの二人、夜は……。エッチとか……」
してるんだ、と思い、秀一は一人で赤くなった。
「ああ、もう! ホントに俺って!」
ここでこうして休んでいても、落ち着かない。
まだ休憩時間は残っていたが、早々に表に出て行った。
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