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第十一章・3

「あれ? 宮木くん、休憩はまだ5分ほど残ってるんじゃないか?」 「ちょっと、体を動かしたくて」 「休むのも、仕事のうちなんだが」 「いらっしゃいませー!」  衛を置いて、さっさと仕事に戻る秀一だ。  正直、彼の顔すら正視できない。 (マスター、早紀くんと……。もしや、昨夜も……)  煩悩が、とめどなく湧いて出る。  焦る秀一は、つい手を滑らせてコーヒーカップを倒してしまった。 「あ! すみません!」 「いや、君は火傷したりしなかったか?」 「大丈夫です……。申し訳ありません」  見ると、早紀が先手を打ってお客様にお詫びをしている。 「申し訳ございません。もう一度、淹れなおしますので」 「ああ、いいよ。別に急がないから」  幸い客はのんびりとした人間だったので、事は荒立たずに済んだ。 「宮木くん。もしよかったら、もう少し休憩を取っては? それとも、早いけど今日は帰るかい?」 「す、すみません」  衛の勧めもあり、秀一はその日、早退した。

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