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第十一章・6

「やっぱり……、思ってた通り……」  早紀は、老舗一流ホテルの柔らかな絨毯を踏んでいた。  服は、いつの間にか車に運んであったスーツに着替えた。  シューズも、ピカピカの革靴に履き替えた。 「さすが、こういうところは慣れてる雰囲気だな」 「父さんに、たまに連れてきてもらったから」  久しぶり、と早紀は嬉しそうだ。  奮発した甲斐があった、と衛は喜んだ。 「こういうところに連れてきてくれそうだ、って思ってたんだ」 「バレてたのか」 「だから、夕方に失敗しちゃった。ごめんなさい」 「まさか、あの時から楽しみにしていてくれたとは」  予約席に着き、ノンアルコールのシャンパンで乾杯だ。 「衛さん、ワイン飲んでもいいよ?」 「車だからな」  それに。 「それに、こういうところでワインを飲むと、恐ろしい金額になりそうだ」  ふふっ、と早紀は笑い、その後じっと衛を見つめた。 「衛さん、これはクリスマスのお祝い、って考えてもいいのかな?」 「そのつもりだ。すまないな、24日じゃなくて」 「ううん。僕、すごく嬉しい」  思えば父も、早いクリスマスや遅いクリスマスを、早紀に演出してくれたものだ。 「忙しいから、ってスルーされるより、ずっとずっと嬉しいよ」 「良かった」  喜ぶ早紀を見ることが嬉しい、衛だった。

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