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第十二章 恋人たちの夜
「黒毛和牛フィレ肉の、ロッシーニ風でございます」
「ありがとう」
意外なことに、衛はフレンチの作法を熟知していた。
まごつくことなく、流れるような仕草でナイフとフォークを操る。
(慣れてるのかな。まさか……)
まさか、元恋人とよく食べてた、とか?
「どうした?」
「ううん。衛さん、テーブルマナー身に着けてるんだなぁ、って思って」
「ん? うん。ま、この年齢だからな」
(何か、はぐらかされた気分)
しかし、早紀の心に沸いたモヤは、すぐに晴れた。
衛が、食後のお茶を飲む時間に、贈り物を取り出したのだ。
「少し早いが、クリスマスプレゼントだ」
「ありがとう!」
ジュエリーの入っているような、上質紙でできた小さなバッグ。
(まさか、ホントに婚約指輪……!?)
ドキドキしながら包みを開くと、そこからはレザーブレスレットが顔をのぞかせた。
「あ! カッコいい!」
飽きの来ないシンプルなデザインだが、ジョイントパーツにエッジが利いていて、スタイリッシュだ。
本革は、使い込むほど味が出る。
それが、衛が今後も長く付き合おう、と言ってくれているようで、早紀は嬉しかった。
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