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第十三章・6
早紀がちらりと衛の方を見ると、指に着いたソースを舐めている。
あの指が、舌が、僕を苛める。
僕は、僕じゃなくなっちゃう。
「どうかしたか?」
「う、ううん。何でもない」
ひとりでに張ってくる下肢を感じて、早紀は気を逸らそうと必死だった。
そんな彼の気配を、アルファの衛はうっすらと感じ取った。
(フェロモン、少し漏れてるな)
「早紀」
「な、なに!?」
「今から、ちょっと薬局に行こうか。いや、病院がいいかな」
「いいけど。衛さん、どこか悪いの?」
いや、それは。
私じゃなくて、早紀のために、と衛は言った。
「オメガのフェロモン、少し強いみたいなんだ」
「え? なんで解るの?」
「私は、アルファだからね。感じ取ることができる」
嘘。
(は、恥ずかしい!)
だったら僕が今、いけない妄想に耽ってたことも、お見通し!?
「私だけじゃなく、周囲の人間も。敏感な人は解るよ」
「う、うん」
「他人に、早紀に対して色目を使われたくない」
うわぁ、と早紀は赤くなった。
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