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第十四章・2

 その日は恋人とディナーの約束がある秀一は、早めにメビウスを出て行った。 「ね、衛さん。僕、秀一さんからプレゼントもらっちゃった」 「ほう、良かったな。何をもらったんだ?」 「靴下。上等の」  靴下か、と衛は心の中で安堵した。  友達の域を越えない、無難なプレゼントだ。  二人の仲を疑うわけではなかったが、秀一がその気でないのなら、安心感は増す。 「早紀は? 宮木くんに、何かプレゼントしたのか」 「僕、準備してなくって。だから、サンタブーツなんかあげちゃった」  それも、結局は休憩時間に二人で食べたのだ。 「僕はいらない、っていったのに。秀一さんが、一緒に食べよう、って」 「宮木くんは、早紀のお兄さんだもんな」  笑いながら、衛は早紀にココアを出した。  クリスマス・イヴに、お客は少なかった。  きっと、家族や恋人、友人たちと過ごすのだろう。 「早紀、メリー・クリスマス」 「え? 何? うわぁ!」  カウンターに掛けた早紀の前に、可愛らしくデコレーションされた小さなケーキが現れたのだ。 「夕食までに、まだ間があるからな。これでも食べて、しのいでくれ」 「これ、衛さんが作ったの!?」 「まあ、そんなところだ」  嬉しい、すごい、と早紀は大喜びだ。 「衛さん、バリスタやめてパティシエになればいいよ!」 「無茶言うなよ」  いい具合に、ケーキを食べ終わるまで、お客様は来なかった。  メビウスの温かな空間で、衛と早紀は充分クリスマス気分に浸ることができた。

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