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第十四章・6

 マンションに着いても、秀一は泣いたり笑ったりしていた。  すき焼きを食べ、ビールを飲み、酔っては泣き、笑った。 「秀一さん、泣き上戸なのかな。笑い上戸なのかな?」 「両方だろう」  さ、と衛は秀一を抱き起すと、寝室へ運んだ。 「早紀、今夜はソファで寝るぞ」 「うん」  広い大きなベッドに、秀一をごろんと横たえると、彼は薄目を開けて衛に言った。 「す、すみません。もう、アパートに帰ります」 「今夜は、泊っていきなさい」 「マスター。俺、俺……」 「辛かったな」  そこで、秀一の目からはどっと涙が溢れ出た。 「寝室は、一人で使っていいから。存分に、泣くといい」 「あ、ありが、とう、ございま、す……ッ」  衛は、タオルも秀一に貸した。  彼はそれを目に当て、噛みしめ、ただひたすらに泣いている。  その様子を、早紀は心配そうにそっと見ていた。  そしてソファに横になる前に、衛に訊いてみた。 「秀一さん、大丈夫かな」 「大丈夫じゃないな」  だが、とも言った。 「泣いて乗り越えられれば、彼はまた一つ成長するよ」 「そうかな」 「早紀も、そうだったろう?」 「うん……」  あの時の僕と、同じ。  可哀想な、秀一さん。  しょっぱい涙の味に彩られた、早紀のクリスマス・イヴだった。

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