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第十五章・2
「じゃーん。僕の淹れたコーヒー、試してみて!」
「マスターは?」
「先に、メビウスに行ったよ。僕も、後から入るけど」
ああ、と秀一は考えた。
(マスターは、俺の面倒を見るために、早紀くんを残したんだ)
申し訳ない、とうなだれそうなところを、早紀が支えた。
「秀一さん、今日はバイト休みでしょう。のんびりしなさい、って衛さんが言ってたよ」
「うん、ありがとう」
勧められ、早紀の淹れたコーヒーを飲む。
それは、芳醇な慈味に満ちていた。
「美味い……。すごく美味しいよ、早紀くん」
「良かったぁ」
じゃあ次は、チーズトーストを焼くね。
かいがいしく秀一の面倒を見る早紀だが、そっと自分を思い出していた。
打ちのめされた自分を支えてくれた、衛の真似をしていた。
(秀一さん、少しでも元気になってくれればいいけど)
チーズトーストに、フルーツサラダ。
ゆで卵に、はちみつたっぷりのヨーグルト。
そして、リンゴを剥いた。
ようやく剥けるようになった、ウサギさんリンゴ。
それを見ると、秀一はようやく笑った。
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