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第十五章・3

「ウサギリンゴ、可愛いな」 「僕、ここに来た時は、リンゴを自分で剥けなかったんだよ」  衛さんに教えてもらって、やっとできるようになったんだ。 「その他にもね、できるようになったこと、たくさんあるんだ」 「例えば?」 「浅漬けとか!」  意外と古風だね、と秀一はまた笑った。  早紀は、嬉しくなった。 (秀一さん、どんどん元気になってくれてるみたい) 「上手になったことも、あるよ。洗濯物の畳み方とか!」  あと、フ……。 「ふ?」 「いや、あの。何でもない!」  フェラが巧くなった、とはさすがに言えない!  それでも、何とか元気を分けてあげようとする早紀の真心は、秀一にも伝わった。 「早紀くん、ありがとう。俺、もう大丈夫だから」 「嘘。大丈夫じゃないよ」 「うん、そうだけど。でも、心の傷に、かさぶたができた感じ」  マスターと、早紀くんのおかげだよ。  秀一は、素直にそう言った。

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