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第十五章・5
「秀一さん、コーヒーのお代わりする?」
「うん、もう一杯いただこうかな」
もっと、ここに居たい。
少しでも長く、この温かな空間に居たい。
そんな願いが、秀一の腰を重くしていた。
優しい、早紀くん。
そんな早紀と、別れた恋人とを比べるようになっていた。
(同じオメガ性だけど、全然違うよな)
彼は、どちらかと言うと、秀一にべったり甘えきっていた。
オメガであることを理由に、無能ぶっていた。
「早紀くんは、辛い境遇に置かれても、自分を見失わずにしっかり生きているよね」
「何、突然」
「いや、別れた相手と違うと思って」
それには、早紀は人差し指を立てて振った。
「ダメダメ。元恋人のことなんか、思い出しちゃ」
前に、進むんだ。
そう、早紀は言う。
「新しい恋、見つけなきゃね。大学に、気になる人はいないの?」
「そうだね。大学には、特に気になる人はいないなぁ」
そこまで答えて、秀一は息を飲んだ。
気になる人が、いるのだ。
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