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第十六章・2
「ああ、来てる来てる」
ドアの隙間から入れられたチラシ類をかき集めた後、衛は郵便受けを開けた。
中には、十数枚程度のハガキが。
それらに目を通しながら、衛は鍵を開けて店内に入った。
「早紀、エアコン入れて」
「はーい」
相変わらずハガキをチェックしながらコーヒーを淹れる準備をしていた衛だったが、ふとその動きが止まった。
早紀は、コーヒーカップを出しているので気づかない。
衛はそんな早紀を見て、そっと腕を伸ばした。
「早紀。君に、年賀状が来てる」
「僕に? 誰だろ」
誰からも、年賀状なんか届くわけないのに。
「お父さんから、だよ」
「え……!?」
衛が寄こした年賀はがきには、差出人の名前も住所もなかった。
ただ、干支の描かれている隅に、こうあった。
『元気にしているかい。きっとまた、一緒に暮らそう』
元旦に届く年賀状には、消印が押されない。
自分の居所を秘密にしたい父からの、精いっぱいの愛情だった。
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